これは、あの嵐のような「生徒会ストライキ」が起こる、少し前の物語。
晩秋の冷たい雨が、いつしか湿った雪へと姿を変え、学園の石畳を白く染め始めていた頃のことだ。
放課後の第六実習棟――通称『創造の揺り籠』の熱気は、外の寒さを寄せ付けなかった。
セオドリック・フォン・ランカスターは、馴染み深いラボの重い扉を、いつもと変わらぬ優雅な動作で押し開けた。
立ち並ぶフラスコ、魔導回路の焦げた匂い、そして山積みの古書。その雑多な空間の奥で、こちらを振り返りもせずにペンを走らせる、一人の背中がある。
「やあ、レイ。今日も熱心だね。君の勤勉さには、未来の我が国の官僚たちも見習わせたいほどだよ」
セオドリックは、陽光のような微笑みを浮かべながら歩み寄った。
制服のジャケットを完璧に着こなし、乱れのない足取りで進むその姿は、確かに次期宰相としての品格に満ちている。
だが、その脇に抱えられていたのは、およそ優雅さとは無縁な、おぞましいほど複雑な術式が書き殴られた、ぶ厚い設計図だった。
「……何の用だ。お前が一人でここに来る時は、碌なことがない」
レイモンド・アシュクロフトは、不機嫌を隠そうともせずに筆を止めた。
隈の浮いた瞳がセオドリックを射抜くが、セオドリックはその拒絶さえも、親しい友人からの挨拶として心地よく受け流す。
「ひどいな。僕は君に、春の魔導技術発表会のための、素晴らしいアイデアを持ってきたんだ。名付けて『ランカスター式・広域多層防御結界陣』。……これを見てくれ」
