高貴なる生徒会長は、今日も副会長を慈しむ  ~学園の貴公子と没落貴族のすれ違い救済ライフ~



 深夜。時計塔の鐘が二度、静まり返った学園に響いた。
 レイモンドは、生徒会室の前に立っていた。日中は善意の嵐に揉み倒され、精神はすでに限界だったが、だからこそ、彼は渇望していた。
 あの使い込まれたデスク、インクの染み、そして解くべき難解な数式。それだけが、彼がレイモンド・アシュクロフトであることを証明してくれる。

 レイモンドは、昼間のうちに盗み取った魔導認証のバイパス・コードを指先に編み上げた。
 カチリ、と小さな音がして、堅牢な扉が静かに開く。

 月光だけが差し込む、誰もいない生徒会室。
 そこには、昼間と変わらず青白い障壁に守られたデスクがあった。
 レイモンドは忍び足で近づき、その障壁の術式構造を解析し始める。

(……多重構成か。だが、論理の穴はある。ここをこうして、魔力を逆流させれば――)

 レイモンドの指先が、障壁の核心に触れた、その瞬間だった。

「――お疲れ様、レイ」

 背後から響いた、あまりに穏やかで、聞き慣れた声。
 全身に、氷水を浴びせられたような戦慄が走った。
 振り返ると、本を片手に、ソファーに深く腰掛けるセオドリックの姿があった。
 いつからそこにいたのか。月光を浴びる碧眼が、不気味なほど美しく輝いている。