高貴なる生徒会長は、今日も副会長を慈しむ  ~学園の貴公子と没落貴族のすれ違い救済ライフ~



 生徒会室を追い出されたレイモンドは、冬の冷たい風が吹き抜ける回廊を、あてもなく彷徨っていた。
「休暇スケジュール」と書かれた羊皮紙が、死刑宣告のように重い。

(……狂っている。あの男は、完全に正気を失っている)

 レイモンドは何度も振り返り、堅牢な扉の向こう側を睨みつけた。
 仕事を奪われることが、これほどまでに心許ないとは思わなかった。家門が潰れた時、自分に残されたのは、有能であることという誇りだけ。その証明の場を、無慈悲にも奪い取られた。

 仕方なく、彼は慣れ親しんだ図書館へと向かった。セオドリックに見出される前、毎日のように潜んでいた場所だ。

「……失礼する。奥の席は」

 カウンターの司書に声をかける。すると、返ってきたのは慈母のような微笑だった。

「ああ、副会長。会長から伺っておりますわ。今日は『特別リラックス席』をご用意しております。一番日当たりの良い、特製のカウチソファがある席です」
「……何?」
「それから、こちらが会長から預かっている『休暇用読書リスト』です。魔導物理学や歴史書は貸し出し禁止と言われていますので、こちらの『南国料理の探求』か『子犬と歩む世界旅行』からお選びください」

 目の前が真っ暗になる。

(あいつが言っていたのは、このことか……!)

 促されるまま指定の席へ向かうと、そこはいわゆる、陽だまりの特等席(・・・・・・・・)だった。クッションは不気味なほど柔らかく、まるで、底なし沼に引きずり込まれるようだ。

「……こんなところで、本なんて読めるか」

 本を開くふりをして、魔導演算のメモを取り出そうとする。だが、指先が触れたのは空っぽのポケットだった。
 予備のペンも、計算用の羊皮紙も、昨日のうちにすべて没収されていたことを、今さらながらに思い出した。

 手持ち無沙汰という名の拷問。
 周囲の学生たちが「あの副会長が昼寝をしている」と、物珍しそうに視線を送ってくる(ような気がする)。
 没落して以降、自分を憐れんだ群衆の視線が、今の晒し者状態に重なり、胃をギリギリと締め付けた。

(落ち着け……。あいつの目が届かない場所が、必ずあるはずだ)

 レイモンドは、カウチから転げ落ちるように立ち上がると、図書館を飛び出した。