一時間、あるいは二時間経っただろうか。
レイモンドは、自分の集中力が驚くほど研ぎ澄まされていることに気づいた。
隣に、自分以上の魔力と存在感を持つ男がいるというのに、不思議と息苦しくない。それどころか、セオドリックがページをめくるリズム、その静かな呼吸の音が、自分の思考を補完するメトロノームのように心地よかった。
(……没落して以来、誰かとこうして静寂を共有したのは、初めてかもしれない)
セオドリックは何も強要せず、ただ隣にいる。
彼が放つ圧倒的な光が、この薄暗い部屋では、レイモンドという影を優しく包み込む毛布のように機能していた。
レイモンドはふと、隣の男の横顔を盗み見た。
魔導灯に照らされたセオドリックの瞳は、いつもより深く、どこか遠くを見つめているようだった。
この男も、自分と同じように、光という名の檻に閉じ込められているのかもしれない。
その瞬間、レイモンドの胸に、名付けようのない信頼が芽生えた。
主従でもなく、ライバルでもない。ただ、冷たい秋の雨を凌ぐ二匹の獣のような、奇妙で、切実な共犯意識。
(……このまま、雨が止まなければいい。栞など、必要ない。この続きのない時間だけが、俺の唯一の――)
だが、その安らぎが、やがて来る歪んだ情熱への前触れであることに、この時のレイモンドはまだ、気づいていなかった。
