「やあ、レイ。君もここへ来るなんて、僕たちはやはり波長が合うらしい」
セオドリックは顔を上げず、ただ穏やかにそう言った。
レイモンドは舌打ちを一つ。引き返すべきか迷ったが、結局、セオドリックから二つほど席を空けた場所に腰を下ろした。
「……あいにく、俺は仕事で来ている。お前のように、優雅な読書を楽しみに来たわけではない」
「僕も仕事だよ。未来の宰相として、過去の知恵を学ぶというね」
「お前が宰相か。……世も末だな」
「ははっ、じゃあ、代わりに君がやってくれる?」
「――遠慮する」
それきり、会話は途絶えた。
窓を打つ雨音が、次第に激しさを増していく。
ふと、塔全体が微かに震え、激しい金属音が響いた。同時に照明が落ちる。
落雷により、塔の完全隔離結界が自動作動したのだ。嵐が過ぎ去り、安全が確認されるまでの間、この部屋からは出られない。
「……閉じ込められたな。最悪だ」
レイモンドは重い扉を睨みつけ、吐き捨てるように言った
「そうかな? 僕は、ようやく訪れたこの静寂を、気に入っているよ」
「お前はいつだってそうだ。自分の都合のいいように世界が動いてると思ってる」
「ははっ、そうか。君からはそう見えてるんだね」
「……何でもいいが、せいぜい邪魔をするなよ。俺は忙しいんだ」
「ああ、約束しよう。君の思考の邪魔をするほど、僕は無粋じゃない」
セオドリックは微笑むと、指先で魔導灯を灯した。
薄暗い部屋に、温かな、小さな円形の光が浮かび上がる。
二人の間の距離が、その光の輪によって、奇妙に狭まったように感じられた。
