高貴なる生徒会長は、今日も副会長を慈しむ  ~学園の貴公子と没落貴族のすれ違い救済ライフ~


「会長、先日の演説、素晴らしかったです!」
「模擬戦も本当にかっこよくて――ぜひ僕らにご指導を!」
「会長!」
「生徒会長!」

 王立ラプラス魔導アカデミーの朝、生徒会室の前の廊下は、セオドリックを呼ぶ声で溢れかえっていた。
 次期宰相と呼び声高いランカスター公爵家の嫡男であり、学園の生徒会長、セオドリック・フォン・ランカスター。
 陽光に透き通る金髪に、海より深い碧眼の瞳。すらりとした長身を包む深紺(ミッドナイトブルー)の制服が、彼の気品を際立たせている。
 彼は呼び止められる度、一人ひとりの目を見て、完璧な微笑みを返していく。

「ありがとう、光栄だ」
「君は確か、魔法剣術部のエリックだね。今度必ず寄らせてもらうよ」

 それは彼にとって苦労でも何でもなかった。支配者(ランカスター)の名に相応しく、学園というこの大きな家族が円滑に回るための太陽として振る舞うこと。それが自身に与えられた正義(ノブレス・オブリージュ)だと、一点の疑いもなく信じていたからだ。
 けれど、そんな彼の「光」が届かない場所が、生徒会室の奥にあった。

「……セオドリック。また入り口で捕まっていたのか。時間の無駄だ。早く座れ」

 顔も上げずに飛んでくる冷淡な声。

 重く湿った夜を溶かしたような、艶のない黒髪。そして、光の一切を吸い込み、思考の深淵を隠し通す漆黒の瞳。
 書類の山に身を潜めるその影こそが、副会長のレイモンド・アシュクロフトだ。

 没落したアシュクロフト家の末子。周囲は彼を『幽霊副会長』と呼んで距離を置くが、セオドリックにとってのレイモンドは、この学園内で唯一自分を肩書きのない個人として扱う、無二の人間だった。