自動ドアの向こう側で、赤と青の光が激しく回転している。吹雪の白に混ざり合うその光が残酷なほど現実を突きつけてきた。
「失礼します、警察です」
入って来たのは二人の警察官だった。制服についた雪が、店内の熱気に触れて一瞬で水滴に変わる。
彼らの表情は硬く、仕事としての義務感が滲み出ていた。私は反射的に、毛布の端を強く握りしめた。
「六花ちゃん、大丈夫。この人たちは君を助けに来たんだよ」
店員さんが私の背中にそっと手を添えてくれた。その手の温かさが、私の震えを辛うじて止めていた。
店長さんが警察官に事情を説明し始める。家を出た瞬間、ここに来た時の状態、そして私が「警察を呼んでほしい」と自ら望んだこと。
「・・・・・そうですか。本人から直接話を聞く必要がありますので、署まで同行をお願います」
一人の警察官が私に歩み寄ってきた。彼は私の手元にある空のペットボトルに目を留めていた。
「それは、捨てていこうか」
彼が手を伸ばした瞬間、私は無意識にボトルを後ろに隠した。
「・・・嫌です」
「でも、ゴミだろう?」
「ごみじゃ、ありません」
私は頑なな態度に、警察官は困ったように眉を下げた。店長さんがすかさず間に入ってくれる。
「良いじゃないですか。お守りみたいなものですから。持たせてやってください」
警察官は肩をすくめて、それ以上は何も言わなかった。
私はゆっくりと椅子から立ち上がった。足にはまだ力が入りきらなかったけれど、店員さんが肩を貸してくれて入り口まで歩いた。
自動ドアが開く。
外の空気は、やはり凍りつくほど冷たかった。けれど、不思議と絶望は感じなかった
私の内側には、まだ「午後の紅茶」の熱が、残り火のように灯っている。
「六花ちゃん」
パトカーに乗り込もうとしたとき、店長さんが呼び止めた。
彼は西松屋の入り口に立ち、雪に打たれながら私を真っ直ぐに見つめていた。
「これからはもう、自分を責めなくてもいい。君は生きるために、一番勇気のある選択をしたんだから・・・元気でな。」
店員さんは隣で大きく手を振っている。
私は何度も頷いた。声に出すと、また泣いてしまいそうだから。
パトカーのドアが閉まり、車が動き出す。
窓の外に流れていく景色。ピンク色のうさぎの看板が、吹雪の中に小さくなっていく。
それは、私の人生で初めて出逢った「本物の光」だった。
車内は静まり返っていた。警察官たちの無機質な無線機の声だけが響く。
私は膝の上で、空になったペットボトルをそっと撫でた。ラベルは少し剥がれ、プラスチックの肌はもう冷たくなっていたけれど、
私の拳には、あの時感じた確かな熱の記憶が刻まれている。
名前も知らない人たちが、私のために心を痛めてくれた。
それだけで世界はまだ、終わらせるには早すぎる場所だと思えた。
車は街の灯りの中へと吸い込まれていく。
これから私を待っているのは、警察での聞き取り、児童相談所での生活、そして、あの家との決別。
どれもが険しく、厳しい道のりだろう。
けれど、私はもう、あの吹雪の中で立ち尽くしていた少女ではない。
私は、自分の「六花」という名前をもう一度反芻した。
冷たくて儚いだけの雪じゃない。
温かな誰かの手の上で溶けて、その人の心に染み込んでいけるような。
そんな、新しく強い「水」に、私はなりたかった。
パトカーは夜の国道をひたすら走る。
西松屋の光はもう、見えなくなっていた。
けれど、私の心の中には、琥珀色の光がずっと消えることなく灯り続けていた。
「失礼します、警察です」
入って来たのは二人の警察官だった。制服についた雪が、店内の熱気に触れて一瞬で水滴に変わる。
彼らの表情は硬く、仕事としての義務感が滲み出ていた。私は反射的に、毛布の端を強く握りしめた。
「六花ちゃん、大丈夫。この人たちは君を助けに来たんだよ」
店員さんが私の背中にそっと手を添えてくれた。その手の温かさが、私の震えを辛うじて止めていた。
店長さんが警察官に事情を説明し始める。家を出た瞬間、ここに来た時の状態、そして私が「警察を呼んでほしい」と自ら望んだこと。
「・・・・・そうですか。本人から直接話を聞く必要がありますので、署まで同行をお願います」
一人の警察官が私に歩み寄ってきた。彼は私の手元にある空のペットボトルに目を留めていた。
「それは、捨てていこうか」
彼が手を伸ばした瞬間、私は無意識にボトルを後ろに隠した。
「・・・嫌です」
「でも、ゴミだろう?」
「ごみじゃ、ありません」
私は頑なな態度に、警察官は困ったように眉を下げた。店長さんがすかさず間に入ってくれる。
「良いじゃないですか。お守りみたいなものですから。持たせてやってください」
警察官は肩をすくめて、それ以上は何も言わなかった。
私はゆっくりと椅子から立ち上がった。足にはまだ力が入りきらなかったけれど、店員さんが肩を貸してくれて入り口まで歩いた。
自動ドアが開く。
外の空気は、やはり凍りつくほど冷たかった。けれど、不思議と絶望は感じなかった
私の内側には、まだ「午後の紅茶」の熱が、残り火のように灯っている。
「六花ちゃん」
パトカーに乗り込もうとしたとき、店長さんが呼び止めた。
彼は西松屋の入り口に立ち、雪に打たれながら私を真っ直ぐに見つめていた。
「これからはもう、自分を責めなくてもいい。君は生きるために、一番勇気のある選択をしたんだから・・・元気でな。」
店員さんは隣で大きく手を振っている。
私は何度も頷いた。声に出すと、また泣いてしまいそうだから。
パトカーのドアが閉まり、車が動き出す。
窓の外に流れていく景色。ピンク色のうさぎの看板が、吹雪の中に小さくなっていく。
それは、私の人生で初めて出逢った「本物の光」だった。
車内は静まり返っていた。警察官たちの無機質な無線機の声だけが響く。
私は膝の上で、空になったペットボトルをそっと撫でた。ラベルは少し剥がれ、プラスチックの肌はもう冷たくなっていたけれど、
私の拳には、あの時感じた確かな熱の記憶が刻まれている。
名前も知らない人たちが、私のために心を痛めてくれた。
それだけで世界はまだ、終わらせるには早すぎる場所だと思えた。
車は街の灯りの中へと吸い込まれていく。
これから私を待っているのは、警察での聞き取り、児童相談所での生活、そして、あの家との決別。
どれもが険しく、厳しい道のりだろう。
けれど、私はもう、あの吹雪の中で立ち尽くしていた少女ではない。
私は、自分の「六花」という名前をもう一度反芻した。
冷たくて儚いだけの雪じゃない。
温かな誰かの手の上で溶けて、その人の心に染み込んでいけるような。
そんな、新しく強い「水」に、私はなりたかった。
パトカーは夜の国道をひたすら走る。
西松屋の光はもう、見えなくなっていた。
けれど、私の心の中には、琥珀色の光がずっと消えることなく灯り続けていた。

