冷徹だと言われた王は、田舎の少女を溺愛する

「あれ…?」
「ここをこうだよ」
星藍は田舎で育っていたからか、作法に疎い。そして、生贄ということもあり、服の着方も知らないようだ。
そんな星藍を俺はにこにこに笑顔で見つめる。微笑ましくて仕方がない。
星藍と話し合って、祝言は作法などを一通り覚えてからにしようとなった。
俺は一応この国の皇帝。妻には作法をしっかりしてもらわなければならない。
この結婚には、父や母に反対されたが、俺は無理矢理押し通した。
「鬼帝様、今日のお仕事はお済みになったのですか?」
炎にそう聞かれて、
「あぁ」
と答える。宮殿の中だと、こんな風に"冷徹"だと言われる俺が完成している。
しかし、部屋に戻ると、
「星藍、ただいま」
「おかえりなさいませ、冷様」
と星藍が出迎えてくれる。俺は速攻星藍に抱きつく。
「今日も星藍がいると思うと、頑張れたよ〜!」
そう言うと、星藍も抱きしめ返してくれた。
「私も、冷様がいると思うと、作法の勉強を頑張れました!」
そう言ってくすっと笑う俺たち。
「そうかそうか」
俺は星藍を撫でる。すると、星藍は頬を少し赤くして、俺のことを見つめてくる。
「子供扱いはやめてくださいねっ」
そう言って、星藍はそっぽを向く。でも、俺が名前を呼ぶと、パッとこっちを向く。
「冷様って世間じゃ冷徹って言われていますけど、全然そうじゃないですよね」
にこにこの笑顔でそう言われて、俺は心にじーんとくる。
嬉しくて涙が出そうだ。
「ありがとう」
俺はそう言って、星藍を再度抱きしめた。

私が冷様の花嫁になるに当たって、幾つか知ったことがある。
鬼帝というのは称号で、本名は日之影冷。冷と呼んでほしいと言われた。
そして、世間で呼ばれている"冷徹"というのは嘘だ。
私のことをずっとずっと愛してくれている。本来なら生贄として湖に沈むはずだったこの命を。
冷様は、私のことをすごく溺愛してくる。それはもう信じられないくらいに。
私は今までそんなに重い愛を受けたことがなかった。物心ついたときから両親はいなく、隅の方でご飯を食べていた。
(そういえば、冷様、私のことを見て可愛らしいと……)
この家に来てから何回も自分の顔を見つめたが、可愛らいいと感じる点なんて一つもない。
「はぁ……」
私は考えるのをやめた。すると、扉がこんこんと叩かれる。
(えっと、こういうときは…)
私は冷様が手配してくれた作法教室を毎日受けている。よって、作法も少しましになったと思う。
「はい」
そう返事をすると、私の専属女中の真澄が入ってきた。
真澄とは友達のような関係になりたいと、会った時に伝えた。私は友達がいたためしがなかったので、どんなものなのか体験してみたいのだ。
「真澄!」
私がそう言うと、真澄は柔らかい雰囲気を周りに纏って、こちらにくる。
「星藍様、お夕食のお時間です」
にっこりと笑ってそう言う真澄。その一言を聞いて、私は不満顔になる。
「2人のときは、敬語なしだよ」
そう言うと、真澄は、はいはいと言って、
「星藍、夕食の準備ができたから行きましょう?」
と言ってくれた。私は大きく頷いて、真澄と一緒に食堂へゆく。この家はやっぱり異常なほど広い。
習った作法を思い出して食堂に入ると、そこにはもう冷様が席についていた。
「冷様!」
私が笑顔で言うと、冷様も笑ってくれた。そして、私はいつもの席に座る。
「いただきます」
二人で挨拶をして、夕食を食べる。今日もとても美味しい。
(毎日ご飯を食べれるなんて幸せね)
私がしみじみとしながら夕食を食べていると、冷様がこちらを向く。
すると、
「この家に来て、はや三週間。そろそろ、社交界にデビューしてもいいと思うんだが…」
そう言われて私はいろいろなところに疑問を抱く。
社交界?
デビュー?
私の疑問を読み取ったのか、冷様は、
「今度、俺の友達がパーティを開くらしい。そこに行ってみないか?」
その誘いに私は、興味を持つ。初めて行くところにはできるだけ行ってみたい。
それが私の思いだった。
「行ってみます…!」
そう言うと、冷様は笑って、
「元気があるな。これなら大丈夫だ」
と言ってくれた。

その次の日からパーティに向けての作法の授業が増えた。今までは着物のときの作法、食事の作法が多かったが、今回からは洋装のときの作法も混じるんだとか。
「星藍様、ここはこちらに持ち帰るんですよ」
西洋の食事の作法に体がうまくなれない。
(これじゃ冷様の妻としてやっていけないじゃない…!)
私は私自身を奮い立たせて、作法の授業に挑む。
「こうでしょうか…?」
私がおそるおそる聞くと、先生はにっこりと笑って、
「うまいですね」
と言ってくれた。私はそれが嬉しくて、他の作法も頑張って覚えた。
時々冷様が授業の様子を見に来てくれる。
「星藍、やってるか?」
「はい!」
私がそう言うと、冷様は私をギュッと抱きしめてくれる。すると、先生が、
「鬼帝様、それでは授業になりません」
「だって、星藍が可愛いんですもん」
私はそのやりとりを横で見て、くすくすと笑う。そして、その日の授業が終わり、私は部屋に戻った。
「ふふ」
私のことを極限まで愛してくれる冷様を想像すると、嬉しくてたまらない。
でも、私には忘れてはいけないことが一つある。
私は精神破壊の異能を持っていて、村では忌み嫌われていたことだ。それは、仕方ないことなのだ。でも、私だって異能を持ちたくて持っていたわけじゃない。
気づいたら自分の周りはこんなふうになっていたのだ。
「パーティ、うまくやれるかな…」
私の心はいつも不安でいっぱいだ。もし、パーティの場で異能が開花してしまったら…。
私が不安に押しつぶされそうになっているとき、ドアがノックされた。
私は急いで扉を開ける。細く開けた扉の隙間から見えた顔は真澄だった。
「真澄…。用は後ででもいいかしら…?」
と聞くと、真澄は、頷いた。そして、
「日之影様が明日、パーティ用の服を買いましょうとのことです。パーティまで後一週間、星藍なら大丈夫だろうとおっしゃっていました!」
笑顔でそう言う真澄に、私は頬が綻ぶ。
「ありがとう」
私は、そう言って扉を閉めた。そして、どっと布団に倒れ込む。私はそのまま眠りに落ちてしまった。

パーティ用の服を買いに行く日となった。私はとりあえず、洋装を準備してもらう。
「真澄、髪の毛は…」
私がおずおずと尋ねる。髪の毛ぐらい、普通の人なら結べるだが、私は今まで結んだことがほとんどない。
「私がやります!」
真澄が元気よく答えてくれた。私が髪の毛を結べないことには何も思っていないようだった。
私は鏡の前に座らされる。そして、十分もしないうちに美しい髪型が完成した。服によくあっている。
「わぁ……!」
私が喜びで声が出なくなっていると、真澄は、
「そんな驚くことじゃないですよ」
と言った。でも、きっと一般人が見ても綺麗だと思うだろう。
真澄に感謝しながら、私は玄関に向かう。そこにはすでに冷様がいた。
「星藍…!」
冷様は何故か驚いた顔をしている。
「何か変でしたか…?」
おそるおそるそう聞くと、冷様は、笑って私に抱きついてくる。
「星藍が可愛すぎるんだよぉ〜」
と言った。
(また、"可愛い"…)
私は最近、冷様の言葉一つ一つにドキッとするようになった。
「では、行こう」
こうやって突然、真剣になるところも、いい。
(これって、好き…?)
まだ、よくわからなくて自信がないが、これが好きって感情だろう。冷様に手を引かれて、車に乗り込む。
(車なんて高いのに…)
冷様の財力には毎回毎回驚いてしまう。私の持っていたお金など、小さな塵に思えてきた。
そんなことを考えながら車に揺られていると、いつの間にか服屋についていた。
「鬼帝様、お待ちしておりました」
深々と頭を下げる店員たち。
「失礼しますが、そちらの方は…?」
初めに挨拶を言った一人が尋ねる。すると、冷様はゾワっと殺気を放つ。
「貴様、無礼だぞ。店長はどこだ」
そう一言言った。すると、その人は、
「店長は体調を崩してしまってあいにく休んでおります」
あわあわしながらそう告げる店員さんが可哀想に見えてきた。
「そうか…、それはすまなかった。店長から話は聞いていないのか?」
冷様が謝ってそう尋ねる。すると、従業員の人たちは皆頭を左右に振った。
「すまない。この娘は私の婚約者だ」
そう冷様がいうと、みんなはぱあっと顔を輝かせて、
「おめでとうございます!」
と口々にいった。しかし、その一方で、
「…噂通り"冷徹"だな」
にやにやとそう話す店員もいた。私はその人たちに怒りを覚えつつも、冷様に向き直る。
「どんな服を買うのでしょうか?」
私がそう尋ねると、冷様は、ニコッと笑って、
「洋装かな」
と言った。
洋装?何それ?
私の頭の中は疑問でいっぱいだ。初めて聞く単語に困惑してしまう。
「洋装…ですか」
私が復唱すると、店員さんに腕を掴まれる。
「では、こちらで試着を行いましょう」
私はそう言われて、店の奥へと引っ張られる。
(何が起こるの…?!)
私が困惑でいっぱいになっている中、冷様は私に向かって手をひらひらと振るだけだった。
そして、奥に入れられて、私は服を脱がされる。そして、服を見せられる。
「こちらとこちらどちらを先に着たいですか?」
そう聞かれて私は迷う。一つは桜色の服。もう一つは水色の服。私は迷った末に桜色を選ぶ。
すると、店員さんは慣れた手つきで私に服を着せてくる。
「鬼帝様、こちらでどうでしょうか」
試着室の扉が突然開けられ、私の姿が晒される。すると、冷様は目を輝かせて、
「可愛い!これは買おう」
と言った。この勢いだと全部買いかねないと思った私は、
「そんなにたくさんお洋服は入りませんからね」
と念押しした。しかし、本人には全く聴こえている気配がなく、顔を輝かせているだけだった。
結局その後、私は二十着以上を着せられ、そのうちの十五着を買うことになった。
いくらなんでも買いすぎだと主張したが、冷様は断固として譲らなかった。
そして、いよいよパーティ当日ーー。