黒蛇様と契りの贄姫

 決意を取り戻す花緒の強さに、桜河は胸の奥が熱くなるのを感じた。今にも壊れてしまいそうなほど儚い存在だと思っていた彼女が、今はまっすぐに前を見据えている。

「花緒……」

 声が震える。心の昂ぶりを抑えようとしても、どうしても言葉が続かなかった。桜河は無意識に手を伸ばしていた。

 次の瞬間、彼は花緒をその腕の中に引き寄せていた。音もなく抱き寄せた衝撃に、花緒は小さく息を呑む。けれど桜河の腕の力は、痛いほどではなく、ただ必死に――失いたくないという願いがそのまま伝わってくるようだった。

「無理はするな。俺は、もう〝二度と〟贄を失いたくはない」

(え……)

 花緒の肩口に顔を埋め、桜河が振り絞るように囁く。その掠れた声の叫びが、花緒の心に小さな石を落とした。

 ――『もう二度と贄を失いたくはない』。

(桜河様には、私以外にも贄がいた……?)

 自分でもわからないもやもやとした感情。花緒は桜河の腕の中で身じろぎすらせず、ただただ戸惑うばかりだった。