黒蛇様と契りの贄姫

 けれどもこの場だけは収めたかった。何としても自分の役目を果たしたかった。桜河、梵天丸、蘭之介、山吹、梅、瓢坊、お蓮――自分を受け入れてくれた彼らの恩義に報いるためにも。彼らの生きる黒姫国を守るためにも。

 神楽鈴に体力を渡し、花緒は舞い続ける。花緒の鈴の音と、楽人たちの楽器の音が調和する。

 周囲の花々に青白い光が戻った。光の立ち昇る中、花緒は一心不乱に祈った。これ以上、心を乱されないよう。今の自分の力を信じられるよう。

 自分は成長しているのだ。一歩ずつ、一歩ずつ。過去の自分に捉われる必要はない。

 周囲に充満していた毒気が、空へと洗われていく。大池の縁に蹲っていた少女もまた、立ち上がって昇ってゆく光を見つめていた。

 少女の瞳には輝きが映り込んでいる。現世での辛い記憶を、光と共に昇華していく。毒気が抜け去った少女は穏やかな表情をしていた。花緒はその姿を横目に捉え、自分もまた救われた気持ちになっていた。

(……よかった。なんとか、上手くいったのかもしれない)

 ほっとしたからだろうか。だんだんと体から力が抜けていく。空へと昇っていく青白い光がぼんやりと滲んだ。視界がしっかりと捉えられない。神楽鈴に込めた体力が限界に近づいているのかもしれない。

(あと少し。あと少しだけ持って、私の体……!)

 神楽鈴を鳴らし、花緒は舞の最後の一歩を踏みしめた。楽人の音色も同時に止む。訪れる静寂。青白く光り輝いていた花々の光も収まる。

 大池の縁に集まっていた霊魂たちから毒気は消え失せていた。花緒は胸の前で神楽鈴を持つ手を合わせ、深く一礼をした。