黒蛇様と契りの贄姫

 少女が頭を抱えてか細い声で叫ぶ。震えている小さな背中が、絞り出すような悲鳴の嘆願が、怯えきった目が――花緒は全てが過去の自分と重なった。

 気持ちが乱れて、舞に集中できない。このままでは浄化の儀は失敗してしまうかもしれない。きちんとお役目を果たさなければ。自分が桜河に贄姫として選ばれたのだから。

 彼の期待に応えたい。このような情けない姿、彼に見られたくない――。

 花緒は桜河を振り返る。彼は強張った表情でこちらを凝視していた。いつも冷静な彼に似つかわしくないほど、焦りを滲ませている表情。

(桜河様……?)

 ――なに。なにかが起きている……?

 その時になって初めて。花緒は己の周囲が毒気に満ちあふれている事態に気づく。さきほどまで徐々に散じていたはずの毒気。それが確実に戻って来ていた。大池の周囲で青白い輝きを放っていた花々の光も弱まっている。

 花緒は明らかな異常に気付く。

(どうして? 余計な物事を考えたから?)