黒蛇様と契りの贄姫

 軽やかに足を運びながら、花緒の胸に静かな確信が芽生えていく。自分でも、神聖な気が高まっている気配を感じる。自分の内に流れる贄の血が熱を持ち、体から力が溢れてくるのだ。

 花緒がシャラン、と鈴の音を鳴らすごと、周囲の毒気が散じていく。一面に咲き乱れる青白い花の明かりが次第に増していく。それは神気のようで、舞い続ける花緒の祈りに応えるように大池に舞い上がった。

 花緒は強く祈りを込める。

(大神様。御神意のもと、どうかこの地に集う迷える魂をお救いくださいませ)

 花緒の瞳は真っ直ぐに前を見つめている。裾が風をはらみ、白い衣が毒気の闇に浮かび上がる。

 ――シャラン、シャラシャラ、シャララ。

 鈴の音が冴え渡る。花緒の妖力に反応し、鈴もまた青白い輝きを発する。舞は次第に高まっていき、鈴の最後の一振りで場の毒気を完全に取り除ける――その瞬間だった。

『あんたなんか居なきゃよかった!』

(え……)

 突如として耳に聴こえた声。花緒は僅かに動きを止める。

 とっさに声のしたほうに目を向けると、ひと際どす黒い毒気を纏った塊を捉えた。靄に包まれたそれはやがて、大池の縁にうずくまるひとりの少女へと変わっていった。

 少女の見つめる先にあるのは大池の水面。そこには、彼女の現世の記憶が映し出されている。

 自分は贄姫としてこの場の霊魂と魂を繋いでいるからだろうか。花緒には、水面に映っている少女の記憶が鮮明に視えていた。