黒蛇様と契りの贄姫

(――何となくだけれど、息苦しい)

 無意識に身体が毒気に拒否反応を示しているのだろう。花緒の持つ贄の血は浄化の異能を持つ。毒気と浄化は相対するものだからだ。

 神楽鈴も、稽古で持っていた時よりも重く感じる。それだけこの空間にいると身体に負担が掛かっているのだ。長居は無用。腰が引けている場合ではなく、手早く済ませてしまうべきなのだろう。

 舞姫である花緒の草履が小さな音を立てる。水辺に佇んでいた霊魂たちが、申し合わせたかのように立ち上がる。神楽殿に立つ花緒に一斉に注目した。

 花緒は霊魂たちに静かに一礼をする。顔を上げ、蛇門を見据えた。彼女の凛とした横顔が青白い花明かりに縁どられる。

 皆の息遣いさえ聞こえない静寂の中。花緒は神楽鈴を持つ腕をゆっくりと広げた。

 指先まで神経を研ぎ澄ませる。

 神の御業をこの身に降ろす。真心を込めて舞うのだ。巫女装束の袖がふわりと宙をなびいた。

 立ち昇る青白い光源の中で舞う花緒は、あまりにも神聖だった。神と人とを繋ぐ橋渡しのようだ。まるで流れる水のように滑らかな舞に、霊魂たちはもちろん、桜河たちも目を離せずにいた。

(……大丈夫。上手く舞えている)