黒蛇様と契りの贄姫

 自然と一体化しているようで、霊魂の毒気を清める浄化の儀にふさわしい造りだ。

(なんて立派な神楽殿。与太郎様たちがずっと守ってくださっていたのね)

 妖の王と贄のため。ひいては黒姫国のために、妖狐一族は神楽殿は元より、蛇門、蛇目池、この聖域の森を守り続けてきたのだ。

 花緒はごくりと唾を呑み込む。胸の奥から緊張感がこみ上げてくる。

 与太郎がこちらを振り返る。

「それでは皆様まいりましょう」

 与太郎が指示を出すと、控えていた四人の妖狐が両手を神楽殿に向ける。すると、大池の水面の上に青白い光の帯が伸びた。光の道は神楽殿へと続いている。代々、森一帯を守護している妖狐の一族特有の異能なのかもしれない。

 淡く光り輝く道を、与太郎たちは淀みない足取りで進んでいく。花緒も桜河に促されてその道に足を踏み出した。

 光の帯に導かれるままに歩いていくと、道は神楽殿の板敷の間で途絶えていた。全員が渡りきると、道は役目を終えたかのように散じた。

 気がつけば、四人の妖狐が神楽殿の端にまとまって座っている。それぞれが神楽笛・篳篥・箏・太鼓の楽器を手にしていた。花緒に与太郎が声をかける。

「贄姫様、ご準備が整いましたら舞殿の中央へ」

 桜河が花緒の背中をそっと押す。

「花緒。大丈夫だ。行ってこい」

「はい……!」

 花緒は胸に手を当てて一度深呼吸をする。気持ちがたかぶらないよう、鎮める。桜河が、梵天丸が、与太郎たちが花緒の一挙一動に注目する。花緒は舞い手として神楽殿の中央に進み出た。周囲を滞留している毒気で肌がひりついた。