黒蛇様と契りの贄姫

 お蓮の話では、贄の行う浄化には、贄にしか扱えない特別な神楽鈴を用いる。

 一般的に扱われる神楽鈴よりも一回り大きいのだ。重量があるのは、贄の鈴には特殊な妖力が込められているから。

 鈴の妖力は贄の妖力と共鳴して増幅し、浄化の力に変換できる。そういった仕組みだ。

 また、鈴の妖力は鈴が磨かれて研ぎ澄まされていくとお蓮から教わった。大切に扱われた鈴には強大な力が宿ると。

 だからこそ花緒は、舞の稽古後に必ず鈴を磨いた。

 神楽鈴に最大限の妖力を込めなければ、毒気の浄化は上手くいかない。舞に真心を込め、神の御業を身体に降ろさなければならない。そのため、心を落ち着けて精神を研ぎ澄まさなければならないのに――。

(どうしよう、怖い……!)

 いざ妖門の毒気を前にして、花緒は足がすくんでいた。自分の積み上げてきたものに自信をもちたい。

 けれども自分の舞で、本当にこの恐ろしい毒気を祓えるのだろうか。失敗したら、どうしよう――。

 桜河に贄姫の任を解かれ、屋敷から追い出されてしまうかもしれない。そうしたら自分に居場所はなくなる。もう後がないのだ。

 気がつけば、どんどんと自分で自分を追い込んでいた。どきどきと、緊張と不安から心臓の音が大きくなる。神楽鈴を持つ手が冷や汗で滑り落ちそうだ。

 ――落ち着け、落ち着け。

 そう気持ちを静めようとするほどに空回りする。深呼吸をしようと吐き出した息が震えた。花緒の緊張をよそに、梵天丸が顔を上げた。

「花緒。見るのダ。現世から霊魂がやってくるゾ」

「え?」