「そうだったのですか。私は、桜河様に常世に連れてきていただけてありがたいと感じているのです。皆様に贄姫として必要としていただけると、日々、活力が漲ってまいるのです」
泉水家では、自分の居場所などなかった。人としての尊厳さえ奪われていた。だから常世に来てからというもの、花緒はみるみるうちに元気を取り戻していた。生きる力が、ようやく体の中に戻ってきたのだ。
桜河には、〝自分がどんな暮らしをしていたのか〟を伝えるわけにはいかない。あの屋敷で受けた仕打ちも、この身に刻まれた折檻の跡も——。
だからこそ、何か自分にできる方法で感謝を伝えたかった。言葉にできなくても、せめて笑顔で。
花緒は顔を上げると、自分の幸せな気持ちが伝わるように精一杯の笑みを浮かべる。
桜河は目を奪われたのか、一瞬戸惑った後、「よかった……」と目もとを緩める。花緒の手の内にある簪に腕を伸ばした。
「それを貸しては貰えないだろうか?」
「え? はい」
花緒は桜河に簪を差し出す。彼はそれを受け取ると、長い指で花緒の結い上げた髪にそっと差し込んだ。シャラ、と後頭部で揺れる鈴の音が花緒の耳に届く。
「あ――……」
「よく、似合っている」
間近で桜河が金の瞳を細め、満足そうに笑んだ。自分の贈り物に間違いはなかった。その自信の滲み出ている少年のような表情。花緒は心臓が飛び跳ねる。桜河のこのような素の表情を間近で向けられ、無意識に顔がじわじわ熱くなる。
花緒は桜河の見つめる視線から逃れようと、顔を伏せた。
「桜河様。あの、あの、恥ずかしいです……」
「何故? おまえは美しいのだから、もっと前を向いていれば良い」
「うう……」
泉水家では、自分の居場所などなかった。人としての尊厳さえ奪われていた。だから常世に来てからというもの、花緒はみるみるうちに元気を取り戻していた。生きる力が、ようやく体の中に戻ってきたのだ。
桜河には、〝自分がどんな暮らしをしていたのか〟を伝えるわけにはいかない。あの屋敷で受けた仕打ちも、この身に刻まれた折檻の跡も——。
だからこそ、何か自分にできる方法で感謝を伝えたかった。言葉にできなくても、せめて笑顔で。
花緒は顔を上げると、自分の幸せな気持ちが伝わるように精一杯の笑みを浮かべる。
桜河は目を奪われたのか、一瞬戸惑った後、「よかった……」と目もとを緩める。花緒の手の内にある簪に腕を伸ばした。
「それを貸しては貰えないだろうか?」
「え? はい」
花緒は桜河に簪を差し出す。彼はそれを受け取ると、長い指で花緒の結い上げた髪にそっと差し込んだ。シャラ、と後頭部で揺れる鈴の音が花緒の耳に届く。
「あ――……」
「よく、似合っている」
間近で桜河が金の瞳を細め、満足そうに笑んだ。自分の贈り物に間違いはなかった。その自信の滲み出ている少年のような表情。花緒は心臓が飛び跳ねる。桜河のこのような素の表情を間近で向けられ、無意識に顔がじわじわ熱くなる。
花緒は桜河の見つめる視線から逃れようと、顔を伏せた。
「桜河様。あの、あの、恥ずかしいです……」
「何故? おまえは美しいのだから、もっと前を向いていれば良い」
「うう……」
