桜河が花緒と目を合わせて、ふっと笑う。穏やかな笑顔。今日一日一緒にいた中で、今までよりも桜河と打ち解けられた気がしていた。彼が自分に向けてくれる表情が、今までの畏まった笑顔と違い、素の表情を浮かべてくれていると感じる。
きっと、自分もまたそうなのだろう。彼の前では自然と笑顔を浮かべられる自分に気づく。少しずつ少しずつ、自分も変わり始めているのだ。
そのままふたりは無言で、山間に沈みゆく夕陽を見つめる。言葉はないけれど、居心地が良かった。穏やかな時間が二人の間を流れていく。
桜河が着物の懐から小さな巾着を取り出した。それを花緒に差し出す。
「花緒。これを」
「え? これ、は――」
「開けてみてくれ」
桜河に促される。花緒は巾着袋の口に指を入れ、そっと開いた。
(あ――)
そこに大切に仕舞われていたもの。それは、さきほど花緒が小間物屋で見ていた銀細工の簪だった。手のひらに乗せると、簪の銀の鈴がシャラリとひそかな音を立てる。
桜河が後ろ頭を掻く。
「気になっていたのだろう? 俺からのせめてもの贈り物だ。女性に何かを贈った経験などないから、こういった物で良いのかわからないのだが……」
「桜河様……」
彼の心遣いが嬉しかった。彼の不器用な優しさがくすぐったかった。自分には、誰かに何かを贈った記憶も、贈られた記憶もない。自分にとって初めての贈り物だった。
花緒は簪をぎゅっと胸もとに寄せる。
「嬉しいです。大切にいたします」
「そうか。……ずっと、気にかかっていたのだ。俺はおまえを半ば強引に常世に連れて来てしまった。そうして贄姫としての重責まで背負わせて……。何かお礼をしたいとずっと考えていたのだ」
きっと、自分もまたそうなのだろう。彼の前では自然と笑顔を浮かべられる自分に気づく。少しずつ少しずつ、自分も変わり始めているのだ。
そのままふたりは無言で、山間に沈みゆく夕陽を見つめる。言葉はないけれど、居心地が良かった。穏やかな時間が二人の間を流れていく。
桜河が着物の懐から小さな巾着を取り出した。それを花緒に差し出す。
「花緒。これを」
「え? これ、は――」
「開けてみてくれ」
桜河に促される。花緒は巾着袋の口に指を入れ、そっと開いた。
(あ――)
そこに大切に仕舞われていたもの。それは、さきほど花緒が小間物屋で見ていた銀細工の簪だった。手のひらに乗せると、簪の銀の鈴がシャラリとひそかな音を立てる。
桜河が後ろ頭を掻く。
「気になっていたのだろう? 俺からのせめてもの贈り物だ。女性に何かを贈った経験などないから、こういった物で良いのかわからないのだが……」
「桜河様……」
彼の心遣いが嬉しかった。彼の不器用な優しさがくすぐったかった。自分には、誰かに何かを贈った記憶も、贈られた記憶もない。自分にとって初めての贈り物だった。
花緒は簪をぎゅっと胸もとに寄せる。
「嬉しいです。大切にいたします」
「そうか。……ずっと、気にかかっていたのだ。俺はおまえを半ば強引に常世に連れて来てしまった。そうして贄姫としての重責まで背負わせて……。何かお礼をしたいとずっと考えていたのだ」
