黒蛇様と契りの贄姫

 やって来た花緒を目にするなり、桜河が僅かに目を見開いて固まっていた。やはり似合っていないのだろうか。あまり着飾った経験がない自分は決して容姿に自信があるわけではない。

 それでも何故だか彼には、似合っていると感じてもらいたい自分がいたのもまた事実だった。

(……私ったら、いつの間にこんなに欲張りになったのだろう)

 分不相応な期待をもっていた自分が恥ずかしくなり、所在なく視線を彷徨わせる。

 その花緒の背中を、梅が軽く押す。

「花緒様。自信をお持ちになってください。お嬢様はとてもお美しいです。なにせこの老婆が腕によりを掛けましたから。ほら、桜河様が見惚れていらっしゃいますよ?」

「え?」

「――っ!」

 梅の言葉に、花緒は弾かれるように顔を上げる。こちらを凝視していた桜河と目が合った。彼は、はっと我に返って首の後ろに手を当てる。

「あ、いや……その、よく似合っている」

「あ……」

 ――『よく似合っている』。

 桜河の放ったその言葉が、花緒の心の中にぐるぐると駆け巡っていた。痛いぐらいに胸を叩く鼓動に上手く言葉を紡げずにいると、桜河の視線が花緒の顔から上に移る。

「その髪は……」

「あ、えっと、梅さんが結ってくださったんです。すみません、変でしょうか」

「いや、なるほど、流石梅だな。とても美しい。髪も、着物も」

 たどたどしい桜河の賛辞。その不器用さが、お世辞ではなく彼が心から褒めてくれているのだと感じる。花緒はあまりにも気持ちがくすぐったくなってしまって、真っ赤に染まった顔を伏せる。

 恥ずかしくて、それ以上に嬉しくて、体が熱い。彼の目に留まると、自分がこんなにも幸せに感じるとは知らなかった。

 最近の自分は、どうもおかしい。桜河の反応に一喜一憂してしまうのだ。花緒は、今まで感じた経験のない不可解な感情に戸惑うばかりだった。
 桜河が笠を手に取り目深に被る。

「それでは参ろう。今日はおまえの見て回りたい場所へ行くぞ」

「はい」

「いってらっしゃいませ」

 梅や出迎えた使用人たちがにこやかに手を振っていた。