黒蛇様と契りの贄姫

「桜河様! お待たせいたしました」

 無事に外出着に着替え終えた花緒は、屋敷の門前で花緒の到着を待っていた桜河が顔を上げた。

 桜河は、鉄紺色の無地の羽織の中に裏葉色の木綿の着物を纏っている。普段の黒や紺の落ち着いた着物から一転、爽やかな印象を与える柔い緑が彼のもつ魅力を一等引き立てているようで、とくりと心臓が音を立てる。

 ふと自身の容姿に不安を覚え下を見やると、浅葱色の下駄と目が合った。

 花緒が着ているのは銀糸で桐唐草の地模様が織り込まれた瓶覗き色の小紋。藍色の帯に咲き誇る大輪の芙蓉のそばには銀細工の蝶がゆらゆらと舞い遊んでいる。

 自分ではあまり選ばない大柄な模様の帯は、最近の常世の流行なのだと梅が張り切って用意してきたものだった。

 派手な装いをした経験のない自分には身に余るのではないかと心配したが、着物の淡い色と調和して涼を感じさせる装いは不思議と自分によく馴染んだ。

(本当、梅さんの目利きには毎回感心してしまうわ)

 全体的にいつもより鮮やかな色合いに身を包んで着飾っている姿を鏡で見ると、これが本当に自分なのかと胸が高鳴った。

 果たして彼にはどう映るのだろうか。不安と、ほんの少しの期待をもって桜河の前に歩を進める。