(それでも珊瑚が同道するのは、他でもない、私という〝痣のある者〟の家族として同級生から疎まれ続けたから)
やっと邪魔者がいなくなる瞬間をこの目で確かめるためなのだろう。
黒蛇の外貌は、漆黒の鱗を持ち金の瞳だけが静かに燃えている恐ろしい姿だという。動くたび空気が凍り、尾の一振りで地が裂けるらしい。そう伝えられているとはいえ、数ある歴史書物の中にそれらしい記載が残されているだけだ。そもそも、黒蛇が〝現世〟に現れたのは、過去に贄姫の奉納が失敗に終わった事件のときだけだった。実際のところ、皆、黒蛇の実物を知らないのだ。
妖の王は常世を統べる統治者だ。彼の持つ異能はどの妖魔よりも強いと聞く。地位と、名誉。黒蛇はすべての要素を兼ね備えた完璧な存在だ。
妖の王の信頼を得れば、常世でも現世でも力を持つ存在になれる。望めば多くのものを手に入れられるだろう。だが今の珊瑚は、そんな打算とは別の理由でここにいる。
(きっと珊瑚は、私を黒蛇への贄として差し出したその結末を、その目で確かめたいのだわ……)
姉の最期を見届け、自分の中で何かを終わらせようとしている。だからこそ――この危険な旅に、あの子は同行しているのだ。
(……それでもいい。この人生を終わらせられるのであれば)
妖の王に喰われ、贄姫の役目を全うすれば、迷惑をかけてしまった家族に少しでも罪滅ぼしができるだろう。自分に痣が現れてからというもの、家族仲が悪化してしまったのだから、自分がこの家に不幸を呼び込んだのだ。
贄姫を産んだ母親もまた、花緒ともども一族全員から非情な扱いを受けた。それでも母親だけは花緒を愛し、慈しんでいた。だが、限界だったのだろう、ある日、精神に異常をきたし、あまりの扱いに耐え切れず花緒を置いて自死してしまったのだ。花緒は軟禁部屋で母の死を聞かされたのみで、母の葬儀に参列できなかった。
狭い砂利道を奥へ奥へと歩き進める。時折、この辺りで暮らしている野うさぎが顔を覗かせる。
(まだ、こんなところにも生き物が……)
皆決まって、花緒を黒い円らな瞳で心配そうに見上げていた。自分は何故か、昔から生き物に好かれやすかった。贄姫の異能がそのような性質を持っているのか。それとも生命の源とされる水を冠する泉水家に生まれたからなのかはわからない。それでも人に避けられながら生きてきた自分には、動植物を慈しみ愛される喜びは心の支えの一つだった。
やがて少しだけ開けた小石の原に出た。朱色の大鳥居がそびえ立っている。その下に大池が広がっている。花緒たちがやって来ると歓迎するかのようにかがり火が独りでに点々と灯る。その灯りが大池の水面に幾つも映り込み、大層華やかになった。
さすがの定正も足を止め、息を呑む。
「ここが常世へと続く北の門か……」
「なんだか不気味ですわね」
やっと邪魔者がいなくなる瞬間をこの目で確かめるためなのだろう。
黒蛇の外貌は、漆黒の鱗を持ち金の瞳だけが静かに燃えている恐ろしい姿だという。動くたび空気が凍り、尾の一振りで地が裂けるらしい。そう伝えられているとはいえ、数ある歴史書物の中にそれらしい記載が残されているだけだ。そもそも、黒蛇が〝現世〟に現れたのは、過去に贄姫の奉納が失敗に終わった事件のときだけだった。実際のところ、皆、黒蛇の実物を知らないのだ。
妖の王は常世を統べる統治者だ。彼の持つ異能はどの妖魔よりも強いと聞く。地位と、名誉。黒蛇はすべての要素を兼ね備えた完璧な存在だ。
妖の王の信頼を得れば、常世でも現世でも力を持つ存在になれる。望めば多くのものを手に入れられるだろう。だが今の珊瑚は、そんな打算とは別の理由でここにいる。
(きっと珊瑚は、私を黒蛇への贄として差し出したその結末を、その目で確かめたいのだわ……)
姉の最期を見届け、自分の中で何かを終わらせようとしている。だからこそ――この危険な旅に、あの子は同行しているのだ。
(……それでもいい。この人生を終わらせられるのであれば)
妖の王に喰われ、贄姫の役目を全うすれば、迷惑をかけてしまった家族に少しでも罪滅ぼしができるだろう。自分に痣が現れてからというもの、家族仲が悪化してしまったのだから、自分がこの家に不幸を呼び込んだのだ。
贄姫を産んだ母親もまた、花緒ともども一族全員から非情な扱いを受けた。それでも母親だけは花緒を愛し、慈しんでいた。だが、限界だったのだろう、ある日、精神に異常をきたし、あまりの扱いに耐え切れず花緒を置いて自死してしまったのだ。花緒は軟禁部屋で母の死を聞かされたのみで、母の葬儀に参列できなかった。
狭い砂利道を奥へ奥へと歩き進める。時折、この辺りで暮らしている野うさぎが顔を覗かせる。
(まだ、こんなところにも生き物が……)
皆決まって、花緒を黒い円らな瞳で心配そうに見上げていた。自分は何故か、昔から生き物に好かれやすかった。贄姫の異能がそのような性質を持っているのか。それとも生命の源とされる水を冠する泉水家に生まれたからなのかはわからない。それでも人に避けられながら生きてきた自分には、動植物を慈しみ愛される喜びは心の支えの一つだった。
やがて少しだけ開けた小石の原に出た。朱色の大鳥居がそびえ立っている。その下に大池が広がっている。花緒たちがやって来ると歓迎するかのようにかがり火が独りでに点々と灯る。その灯りが大池の水面に幾つも映り込み、大層華やかになった。
さすがの定正も足を止め、息を呑む。
「ここが常世へと続く北の門か……」
「なんだか不気味ですわね」
