黒蛇様と契りの贄姫

 桜河が一瞬たじろいだ様子を見せる。花緒は首を傾げた。

 後方に控えていたお蓮がくすくすと上品に笑う。

「うちが誘うたんどすえ。自分の選んだ贄様がどないな舞をしはるのか、見に来たらよろしいと……まあ、桜河はんは恥ずかしがりやさかい、あんさんから見えへんようにこっそり見守ってはったみたいどすけど」

「お蓮、無駄話はよせ」

「ふっふ。そやけど、ほんまに目ぇ奪われるぐらい麗しい舞どすえ。まだ二週間やけど、ほんまにようがんばっとるなぁ。素直で真面目、才能に驕らず努力を怠らへん。鈴も毎日丁寧に磨いてはって……桜河はん、ほんまにええ贄様を選びはったなぁ。花緒はんを奥方に迎えても、よう似合わはりますえ」

「お蓮!」

「お蓮さん! わ、私はそんな……!」

 お蓮のあまりの褒めっぷりに恥ずかしくなる花緒と、流れ弾をくらった桜河。ふたりして顔を真っ赤にする。彼らの慌てふためく様子にお蓮は可笑しそうにけらけらと声を上げて笑った。

「ほな、野暮なお邪魔はこれにてお暇させていただきますなぁ。あとは若い者同士よろしゅうしなさんな」

 お蓮はなおも楽しそうに笑いながら広間を去って行った。

「…………」

「…………」

 残された花緒と桜河。何とも言えない気恥ずかしい沈黙。

 桜河が苦し紛れに咳ばらいをする。

「……舞の練習は、順調か?」

「は、はい。お蓮先生のご指導が素晴らしくて。練習の手応えを感じております」

「それは何よりだ。現世でも舞を習っていたのだろう?」