黒蛇様と契りの贄姫

「今日は、最初からひととおり舞っとおくれやす。この二週間のあんさんの成果、しかと見届けさせてもらいますえ。これまでもお教えしたとおり、お神楽と申しますもの、贄姫の魂と霊魂を結び繋ぐ尊き御儀式にございます。どうぞ御心を研ぎ澄まして舞いなはれ」

 花緒は頷く。贄姫の神楽はただ美しく舞えばいいというものではない。己の所作ひとつひとつに真心を込めて、祈りそのものとなって神前に己を捧げなければならない。邪を清める神の御業をその身に降ろすのだ。

 花緒の集中力が研ぎ澄まされる。花緒は左右の足に静かに体重を移し、腰から膝、足首へと重心を滑らせていく。すり足で前へ進んだところで、お蓮が指示を出す。

「足運びはどうぞ、さらにお静かに。ひとつ音もお立てなきよう」

 花緒はしゃがんだままの姿勢で移動し、手首を柔らかく回して神楽鈴を鳴らす。

 すぐさまお蓮の指示が飛ぶ。

「どうぞ、鈴の音が乱れませぬよう」

 額に汗を滲ませながら、花緒は必死に舞ってゆく。研ぎ澄まされていく舞は、ひとつひとつの動きに神聖な気配が宿り始めた。

 外の木々が風に揺れる。朝の光が大広間に差し込んだ。その光を身に纏い、花緒はまるで白い蝶が舞うように舞衣の袖口をはためかせる。

 シャラン、シャラシャラ、シャララ。清らかな鈴の音。神の巫女が舞い降りたかのようだった。お蓮が眩しそうに目を細める。

「まあ、いとも麗しや――」

 神気の漂う大広間。花緒の稽古の様子をこっそりと窺いに来た桜河が、一心に神楽を舞う花緒の姿に目を奪われる。桜河の存在に気づいていない花緒は、清らかな舞台で蝶のように舞い続けた。

 一曲舞い終えた花緒は、静かに一礼をする。そうして顔を上げたところで――広間の柱の陰にいる桜河に気がついた。

 花緒は慌てて居住まいを正す。

「桜河様! お越しになっていらっしゃったのですか?」

「……ッ、あ、ああ」

「……?」