(――もっと体力をつけなくちゃ)
初めての狂妖の虚葬を目の当たりにし、屋敷に帰宅した花緒は、自室で体を休めていた。現世で最低限の食事しか得られなかった体躯はまだ弱い。いざという時に動けるよう、体力が必要だ。夕餉をしっかり摂ろうと、花緒は萌黄色の手毬柄の単衣を羽織り、桜河の自室へと向かった。
「花緒です。失礼いたします」
襖を開けると、桜河が一人、窓辺の席に座していた。花緒の姿を見て、桜河が優しく目を細める。
「早々に呼び立ててすまなかったな、花緒。……近くへ座れ。話したいことがある」
花緒が隣に控えると、桜河が話を続ける。
「贄姫の神楽の舞について、まだ詳しく話していなかったな。よく聞いてくれ」
「はい、お願いいたします」
桜河の声は落ち着き、低く響く。自室の静寂が、二人の距離を近く感じさせる。
「贄姫の舞は妖力を宿し、現世から来た魂の毒気を清める。おまえと契りを交わしたことで、その力が目覚めた。瓢坊の講義でも習っただろう?」
「はい。北の門――蛇門を通じて現世の魂が常世に入る。そこで私が舞うのですね」
「そのとおりだ。大元を断つのが最善だからな。さっそくだが、一カ月後に蛇門で浄化の儀を行う。おまえも同行してほしい」
「かしこまりました。けれど、私はまだ贄としての舞が不十分かもしれません。きちんと浄化できるのかどうか……」
桜河が真剣な目で見つめる。
「蘭之介は素人だと反対するかもしれないが、山吹も賛成している」
桜河の瞳には揺るぎない自信と穏やかな光がある。
「贄姫である以上、いつかは必ず浄化にあたらなければならない。今は上手くいかなくても構わない。――俺がそばにいる。安心しろ」
初めての狂妖の虚葬を目の当たりにし、屋敷に帰宅した花緒は、自室で体を休めていた。現世で最低限の食事しか得られなかった体躯はまだ弱い。いざという時に動けるよう、体力が必要だ。夕餉をしっかり摂ろうと、花緒は萌黄色の手毬柄の単衣を羽織り、桜河の自室へと向かった。
「花緒です。失礼いたします」
襖を開けると、桜河が一人、窓辺の席に座していた。花緒の姿を見て、桜河が優しく目を細める。
「早々に呼び立ててすまなかったな、花緒。……近くへ座れ。話したいことがある」
花緒が隣に控えると、桜河が話を続ける。
「贄姫の神楽の舞について、まだ詳しく話していなかったな。よく聞いてくれ」
「はい、お願いいたします」
桜河の声は落ち着き、低く響く。自室の静寂が、二人の距離を近く感じさせる。
「贄姫の舞は妖力を宿し、現世から来た魂の毒気を清める。おまえと契りを交わしたことで、その力が目覚めた。瓢坊の講義でも習っただろう?」
「はい。北の門――蛇門を通じて現世の魂が常世に入る。そこで私が舞うのですね」
「そのとおりだ。大元を断つのが最善だからな。さっそくだが、一カ月後に蛇門で浄化の儀を行う。おまえも同行してほしい」
「かしこまりました。けれど、私はまだ贄としての舞が不十分かもしれません。きちんと浄化できるのかどうか……」
桜河が真剣な目で見つめる。
「蘭之介は素人だと反対するかもしれないが、山吹も賛成している」
桜河の瞳には揺るぎない自信と穏やかな光がある。
「贄姫である以上、いつかは必ず浄化にあたらなければならない。今は上手くいかなくても構わない。――俺がそばにいる。安心しろ」
