黒蛇様と契りの贄姫

 山吹が花緒に向き直る。

「町に出てしまった狂妖を手にかける虚葬は、桜河やおれたちの任務の一つなんだ。町の人を守るためでもあるし、狂妖となってしまった彼らの尊厳を守るためでもある。でも、いくら任務だからって慣れるものじゃないし、慣れていいものじゃない。彼らにだって、家族や仕事があって……普通に暮らしていたはずの普通の妖魔だったんだよ」

 山吹の口調はあくまで穏やかだ。狂妖への深い情が感じられる。

 桜河が腕を組む。

「だからこそ、自国の民を守るために俺はなるべく狂妖を生み出さないようにしている。狂妖を生み出す毒気の浄化は妖の王の最も重要な役目だ」

「こう桜河は自信満々にしているけれども、それももう限界に近いんだ。いくら妖の王とはいえ、身体に負担をかけ続けたらいつかは倒れてしまう。桜河はこう見えて強がりで負けず嫌いだ。だから弱音を吐かずに平気なふりをしているけれど――手遅れになるまえに君が現れてくれてよかった」

 山吹が心から穏やかに笑う。桜河は何を言い返せずにどこかむくれている。

 花緒は胸の内がキュッと痛くなる。

「……今更ですけれど、私などで本当に贄姫が務まるのか不安なのです。私のお神楽の舞で毒気を祓い、桜河様や他の妖魔たちが狂妖に堕ちるのを防げるのか」

「それは、実際にやってみるしかないだろうね。これから舞の稽古もつけるようだし、徐々に自信を持てるようになるんじゃないかな。焦らない、焦らない」

「はい……」

「町に被害はなさそうだな。時間が惜しい。屋敷に戻るぞ」

 桜河の一言で、三人は足早に屋敷へと帰還する。

 屋敷の者たちに串団子のお土産を忘れずに買って――。