黒蛇様と契りの贄姫

 山吹が明るく手を叩く。

「よしよし。じゃあ暗い話はこれくらいにして、団子でも追加するか!」

 はい、と花緒が返事をしようとした時だった。

「きゃあああ! 狂妖よッ! 誰か、誰か――――っ!」

 女の悲鳴が辺りをつんざく。のんびりと町を行き交っていた妖魔や人間が、次々と悲鳴を上げながら逃げ惑う。

 花緒は桜河と山吹と顔を見交わす。桜河が緊迫した面持ちで立ち上がった。

「――行くぞ、花緒!」

「は、はい……!」

 狂妖。毒気に狂わされ正気を失った妖魔で、見境なく襲う存在。贄姫である自分が救うべき者。初めての対峙だ。花緒は震える手に力を込め、奥歯を食いしばって立ち上がる。

(怖い。でも、ここで退くわけにはいかない)

 目指すは女の悲鳴の方向。すでに走り出した桜河と山吹の背を、花緒も追いかける。

 駆けつけたのは表通りから離れた裏路地。苔むした石畳、竹垣が風に揺れる。被害は少なく、行き止まりに隻眼の男が佇み、悲鳴の女が尻餅をついていた。

 花緒は二人に駆け寄り声をかける。怪我はないようだ、ただひどく怯えている。

 安堵しつつ、花緒は対峙している男を見て凍りついた。

 異様な気配。一つ目が赤く焦点なく輝き、爪で土を掻き、己の腕を無心に傷つけている。雄叫びを上げる狂妖だ。

(あれが、狂妖……!)