山吹は団子の串を指先でくるりと回し、軽く息を吐いた。
「まあ、ざっくり言うとさ。おれが生まれたのは五百年くらい前、黒姫国が〝暗黒期〟って呼ばれてた頃なんだ」
「暗黒期……。贄姫を差し出さなくなったせいで、王が錯乱した時代ですよね」
山吹は頷き、穏やかな笑みを浮かべる。
「そうそう。常世に生きる妖魔も人間も、毒気にやられて暴走した下等妖魔に追われて毎日が修羅場。常世と現世を繋ぐ門での魂の浄化もまともにできなくなって、穢れが毒気になって黒姫国を蔓延していた。そんな時に、おれは烏天狗の父さんと人間の母さんの間に生まれた半妖なんだ」
桜河が静かに言葉を継いだ。
「山吹の両親は、霊山の片隅でひっそり暮らしていたのだったな。あの時代はまだ、今ほど妖魔と人間の交流はなかったと聞くが……」
「そう。父さんは狩りの途中で山賊にやられて飛べなくなって、常世で転生待ちだった母さんに助けられたんだ。そこで恋に落ちて、集落に戻ったら人間嫌いの連中に爪弾きにされてさ。結局、山奥に二人で小さな家を建てて暮らして、おれが生まれた。
……小さなおれにとって、あの家の中だけは、幸せだったよ」
山吹の声は少し遠くなった。花緒の瞳が揺れる。
「でも、毒気が……」
「うん、蔓延してきた。父さんが狂妖になって、母さんとおれを襲って……結局、二人とも死んでしまった。おれだけ、半妖だからか妖力が強かったせいで生き残ってしまってね。その後はもう、天涯孤独さ」
桜河が淡々と続ける。
「その後、先代――俺の父、桜(おう)影(えい)が戴冠して、毒気を抑え始めた。おまえが烏天狗の集落に戻ったのは、その頃だったな」
「うん。ひとりじゃやっぱり寂しくてさ、仲間に入れてくれないかなって。でも半妖で妖力が強すぎるおれは、怖がられて集団で排除されそうになった。そこで桜影様が助けてくれたんだ。父さんが生前に〝半妖の息子を頼む〟って託してくれたらしい」
山吹は照れくさそうに笑った。花緒は驚きの声を上げる。
「桜河様のお父様が……山吹さんを」
山吹は、ふざけるように桜河の肩に手を回す。
「そ。だから今、こうして桜河のそばにいるってわけ。過去は惨状続きだったけれど、今は仲間にも恵まれて幸せなんだ。だから花緒ちゃん。今度はおれたちが、君を支えていくからさ。少しずつでも、常世を好きになってもらえたら嬉しいよ」
桜河が穏やかに付け加える。
「常世には、そういう者が少なくない。おまえも、無理に背負う必要はない」
花緒の胸に温かなものが広がる。桜河も山吹も優しい。さりげなく自分を励ましてくれるのだ。
「……ありがとうございます。少し、胸が軽くなりました」
「まあ、ざっくり言うとさ。おれが生まれたのは五百年くらい前、黒姫国が〝暗黒期〟って呼ばれてた頃なんだ」
「暗黒期……。贄姫を差し出さなくなったせいで、王が錯乱した時代ですよね」
山吹は頷き、穏やかな笑みを浮かべる。
「そうそう。常世に生きる妖魔も人間も、毒気にやられて暴走した下等妖魔に追われて毎日が修羅場。常世と現世を繋ぐ門での魂の浄化もまともにできなくなって、穢れが毒気になって黒姫国を蔓延していた。そんな時に、おれは烏天狗の父さんと人間の母さんの間に生まれた半妖なんだ」
桜河が静かに言葉を継いだ。
「山吹の両親は、霊山の片隅でひっそり暮らしていたのだったな。あの時代はまだ、今ほど妖魔と人間の交流はなかったと聞くが……」
「そう。父さんは狩りの途中で山賊にやられて飛べなくなって、常世で転生待ちだった母さんに助けられたんだ。そこで恋に落ちて、集落に戻ったら人間嫌いの連中に爪弾きにされてさ。結局、山奥に二人で小さな家を建てて暮らして、おれが生まれた。
……小さなおれにとって、あの家の中だけは、幸せだったよ」
山吹の声は少し遠くなった。花緒の瞳が揺れる。
「でも、毒気が……」
「うん、蔓延してきた。父さんが狂妖になって、母さんとおれを襲って……結局、二人とも死んでしまった。おれだけ、半妖だからか妖力が強かったせいで生き残ってしまってね。その後はもう、天涯孤独さ」
桜河が淡々と続ける。
「その後、先代――俺の父、桜(おう)影(えい)が戴冠して、毒気を抑え始めた。おまえが烏天狗の集落に戻ったのは、その頃だったな」
「うん。ひとりじゃやっぱり寂しくてさ、仲間に入れてくれないかなって。でも半妖で妖力が強すぎるおれは、怖がられて集団で排除されそうになった。そこで桜影様が助けてくれたんだ。父さんが生前に〝半妖の息子を頼む〟って託してくれたらしい」
山吹は照れくさそうに笑った。花緒は驚きの声を上げる。
「桜河様のお父様が……山吹さんを」
山吹は、ふざけるように桜河の肩に手を回す。
「そ。だから今、こうして桜河のそばにいるってわけ。過去は惨状続きだったけれど、今は仲間にも恵まれて幸せなんだ。だから花緒ちゃん。今度はおれたちが、君を支えていくからさ。少しずつでも、常世を好きになってもらえたら嬉しいよ」
桜河が穏やかに付け加える。
「常世には、そういう者が少なくない。おまえも、無理に背負う必要はない」
花緒の胸に温かなものが広がる。桜河も山吹も優しい。さりげなく自分を励ましてくれるのだ。
「……ありがとうございます。少し、胸が軽くなりました」
