黒蛇様と契りの贄姫

 女将が和紙包みの串団子を運んできた。餡とみたらしの二種、出来立ての香りが鼻腔をくすぐる。花緒はみたらし団子を一口。醤油の香ばしさともちもちの食感に目を輝かせる。

(こんな美味しい食べ物、初めて……!)

 桜河が目を細める。

「美味いか、花緒」

「はい……とても幸せです」

 花緒と桜河のやり取りを見守っていた山吹が、静かに花緒に告げる。

「常世では、好きなものを好きなだけ食べていいんだよ、花緒ちゃん」

 花緒は弾かれるように顔を上げた。その言葉に一瞬、遠い記憶の影がよぎる。

 桜河が静かに団子を置き、山吹へ視線を向けた。

「山吹、その言い方は少々――」

「あ、ああ、違う違う!」

 山吹が慌てて両手を振る。

「ただね、花緒ちゃん、こちらに来てからずっと食が細いだろう? 常世の食事に慣れていないのかもって、それが気になっててさ」

「……そう、ですか」

 花緒は小さく笑ってごまかす。

(……山吹さん、もしかして私の現世での惨状に気づいていらっしゃる?)

 人の機微に聡い山吹ならあり得ることだ。けれど、桜河もいる手前、ここでそれ以上言及することはできない。

 誤魔化し笑いをしている花緒の反応に、桜河は小さく眉を寄せる。

「無理はするな。口に合わぬものなら、他のものを用意させればいい。ここでは遠慮する必要はない」

「ありがとう、ございます……」

 その声はかすかに震えていたが、花緒は必死に笑みを保った。

 桜河はそれ以上何も言わなかった。けれど、その眼差しの奥に、言葉にならない違和感が光った気がして――花緒の胸がひやりとした。

(話しても、いいのかしら……)

 ここで誤魔化せば彼を悲しませる気がした。けれども、それを話してしまったら今の桜河との関係が崩れてしまう気がして、言いだせない。

 視線を落とす花緒の肩に、桜河がそっと手を置く。

「おまえが話したくなったら話してくれればいい。無理はするな」

「桜河様……」

 優しい声音に、胸の奥が少しだけ和らいだ。