黒蛇様と契りの贄姫

 三人で市場を視察して周っていたところで、桜河がふと足を止めた。

「花緒、団子は好きか」

「お団子……。そうですね、最近はあまりいただく機会がなかったのですが」

 花緒は素直に答えた。現世では、市場へ出ることなど花緒には許されていなかったからだ。桜河が顎に手を当てる。

「そうか。それならば、あそこに団子屋があるぞ。寄ってみないか」

「あ、わっ、桜河様!」

 桜河はおもむろに花緒の手を引き、木造の小さな団子屋へ向かう。山吹が可笑しそうに笑いながら後をついてくる。団子屋の軒先では串団子が炭火で焼かれ、香ばしい匂いが漂う。花緒は連れられ、暖簾をくぐった。

「あらあら、桜河様、山吹様。いらっしゃいませ。今日は可愛いお嬢さんをお連れですね」

「ああ。俺の大事な贄姫だ」

「桜河様!」

 女将に至極真面目な表情で告げる桜河に、花緒は慌てて言い添える。

 女将が声を立てて笑う。

「おやおや、とてもお似合いじゃないかい。やっと桜河様も贄姫様と絆を深められたのかい?」

「……そうだな。やっとだ」

 間を置いて答える桜河に、花緒の頭をいつかの瓢坊の言葉が過る。

(私が八歳の時に桜河様と出会っていた……。本当なの?)

 聞いてみたい気持ちはある。けれども、瓢坊の見解に従えば、桜河が話してくれるのを待つべきなのだろう。きっとまだ、その時ではないのだ。

 山吹が指を三本立てる。

「女将さん。串団子三本お願いね」

「あいよ」

 女将が店主に注文を伝え、桜河は花緒を店先の木の長椅子に案内する。町を眺めながら団子を味わう場所だ。

 常世に来て初めての市場。花緒はそわそわする。桜河が穏やかに笑う。

「花緒、ずいぶんと団子が楽しみなようだな。楽しそうな顔をしている」

「えっ! す、すみません。町歩きが久しぶりで、つい浮かれてしまって」

「いや、おまえが楽しそうにしていると俺も嬉しい」

 桜河がてらいなく微笑む。真っ直ぐな言葉に花緒はいちいちどぎまぎしてしまう。