(でも、珊瑚を責めることなどできない。私の身にあの痣が……、〝贄姫〟の印が刻まれてしまったのだから)
花緒は、妹の冷たい態度を恨む代わりに、自らに課された宿命だけを静かに呪うしかなかった。
自分に贄姫の痣さえ現れなければ、ごく普通の仲の良い家族でいられたはずだ。自分が家族の輪を乱してしまったのだ。だから自分は、だから自分には、珊瑚に異を唱える権利などない。
後方に控えていた使用人が珊瑚に耳打ちする。
「珊瑚様。そろそろお時間でございます」
「ああ、そうね。ほら、さっさと立ちなさいよ」
立ち上がった花緒の両手を、珊瑚が手にしていた縄でぐるぐる巻きにした。まるで囚人のようにも、飼い犬のような所業に花緒は目を見開く。
珊瑚が不愉快そうに眉根を寄せる。
「どうしたの? はっきりしなさいよ」
「…………」
花緒は引きずられるように歩き出す。
自分に贄姫の痣さえ現れなければ、こんな扱いにはならなかったのだろうか。
花緒は自分の存在が恨めしくて仕方なかった。
花緒はよろけるように下駄を履き、歩を進める。普段は鼻緒の取れかかった草履を履いているけれど、今日は白い着物に合わせた高さのある立派な下駄だ。履き慣れていないせいか転びそうになる。珊瑚が忌々しそうに縄を引いた。
「さっさと歩きなさいよ。わたくしの手を煩わせるつもり?」
珊瑚は顔を背けると、それきり言葉をかけることなく歩き出す。先ほどよりも少し速足になっているのは意地悪のつもりなのだろう。それでも花緒に何かを求める権利はない。珊瑚の気を損ねないよう、必死に後をついていく。
天気は生憎の曇天だった。まるで自分の人生を表しているかのようだ。誰に愛されもせず、最後は生贄として人生を終える。自分の最期の日にふさわしい天気模様だ。
頬に冷たい何かが当たる。どうやらお誂え向きに小雨も降ってきたようだ。
珊瑚が忌々しそうに吐き捨てる。
「やだ、雨が降って来たじゃない。まあいいわ。化け物のあんたにはぴったりの日ね」
「……っ」
花緒は視線を落とす。珊瑚のもとに女官が走り寄り、朱色の番傘を渡す。もちろん花緒にそんなものはない。傘を差して悠々と歩く珊瑚の後ろを、花緒は雨に打たれるまま囚人のように歩く。
屋敷の裏口を抜けると、父親の泉水定正が待ち構えていた。紺色の着流し姿だ。娘の最後の日だというのに着飾ってすらいない。
定正の前で珊瑚が足を止めた。
「お父様。連れてまいりましたわ」
「ご苦労。後は私がやる。下がってよいぞ、珊瑚」
「かしこまりましたわ」
定正は珊瑚から縄を受け取ると、それをぐいと引っ張る。急に掛かった力に、花緒はよろめいて石畳に膝をついた。定正が舌打ちする。
「このくらいで情けない。しゃんと立ちなさい。おまえは泉水家の長女なのだぞ」
「も、申し訳……」
花緒は、妹の冷たい態度を恨む代わりに、自らに課された宿命だけを静かに呪うしかなかった。
自分に贄姫の痣さえ現れなければ、ごく普通の仲の良い家族でいられたはずだ。自分が家族の輪を乱してしまったのだ。だから自分は、だから自分には、珊瑚に異を唱える権利などない。
後方に控えていた使用人が珊瑚に耳打ちする。
「珊瑚様。そろそろお時間でございます」
「ああ、そうね。ほら、さっさと立ちなさいよ」
立ち上がった花緒の両手を、珊瑚が手にしていた縄でぐるぐる巻きにした。まるで囚人のようにも、飼い犬のような所業に花緒は目を見開く。
珊瑚が不愉快そうに眉根を寄せる。
「どうしたの? はっきりしなさいよ」
「…………」
花緒は引きずられるように歩き出す。
自分に贄姫の痣さえ現れなければ、こんな扱いにはならなかったのだろうか。
花緒は自分の存在が恨めしくて仕方なかった。
花緒はよろけるように下駄を履き、歩を進める。普段は鼻緒の取れかかった草履を履いているけれど、今日は白い着物に合わせた高さのある立派な下駄だ。履き慣れていないせいか転びそうになる。珊瑚が忌々しそうに縄を引いた。
「さっさと歩きなさいよ。わたくしの手を煩わせるつもり?」
珊瑚は顔を背けると、それきり言葉をかけることなく歩き出す。先ほどよりも少し速足になっているのは意地悪のつもりなのだろう。それでも花緒に何かを求める権利はない。珊瑚の気を損ねないよう、必死に後をついていく。
天気は生憎の曇天だった。まるで自分の人生を表しているかのようだ。誰に愛されもせず、最後は生贄として人生を終える。自分の最期の日にふさわしい天気模様だ。
頬に冷たい何かが当たる。どうやらお誂え向きに小雨も降ってきたようだ。
珊瑚が忌々しそうに吐き捨てる。
「やだ、雨が降って来たじゃない。まあいいわ。化け物のあんたにはぴったりの日ね」
「……っ」
花緒は視線を落とす。珊瑚のもとに女官が走り寄り、朱色の番傘を渡す。もちろん花緒にそんなものはない。傘を差して悠々と歩く珊瑚の後ろを、花緒は雨に打たれるまま囚人のように歩く。
屋敷の裏口を抜けると、父親の泉水定正が待ち構えていた。紺色の着流し姿だ。娘の最後の日だというのに着飾ってすらいない。
定正の前で珊瑚が足を止めた。
「お父様。連れてまいりましたわ」
「ご苦労。後は私がやる。下がってよいぞ、珊瑚」
「かしこまりましたわ」
定正は珊瑚から縄を受け取ると、それをぐいと引っ張る。急に掛かった力に、花緒はよろめいて石畳に膝をついた。定正が舌打ちする。
「このくらいで情けない。しゃんと立ちなさい。おまえは泉水家の長女なのだぞ」
「も、申し訳……」
