黒蛇様と契りの贄姫

 花緒が頭を下げると、瓢坊は満足げに頷いた。

 それから瓢坊の講義が続き――集中して受けているうちに、気づけば時刻は昼を迎えていた。

「今日の講義はここまでといたしましょう。浄化の契約の歴史から贄の役割までひととおり触れましたが、お疲れさまでしたな、花緒様」

「ご指導ありがとうございました」

 花緒は瓢坊に頭を下げ、座敷を退室する。すると縁側に腰かけていた男性ふたりがくるりと振り向いた。

「花緒、終わったか」

「お疲れさま、花緒ちゃん」

「桜河様、山吹様! お待ちくださっていたのですか?」

 桜河と山吹が花緒を出迎える。桜河は穏やかに微笑み、山吹は人好きのする笑顔で手を振った。

「ああ。このあと皆で町へ出かけて、甘味でもどうかと思ってな」

 桜河が静かに告げ、山吹が饅頭を片手ににやりと笑う。

「花緒ちゃん、常世に来て数日経つけど、まだ屋敷から出ていないだろう? 黒姫国の様子を知っておくべきだと思ってね」

 たしかに山吹の言葉どおりだ。贄姫として桜河と共にこの国を守るのなら、積極的に出歩いて見識を広めておくべきだろう。

 花緒は意気込む。

「はい、私も自分の目でこの国を見ておきたいです。そうすれば、贄姫としてやるべきことがはっきりすると思います」

「良い心がけだな、花緒」

「へえ、桜河がそんなに他人を褒めるなんて珍しい。良い贄姫を選んだよ、本当に」

「からかわないでください、山吹様!」

 花緒は頰を赤らめる。山吹が「――そういえば」と話を変える。

「〝様〟なんてやめてくれないかい、花緒ちゃん」