花緒は目を丸くして爺を見つめた。翁はにやりと笑い、しわがれた声で続ける。
「驚いたかの、花緒様。桜河様の年も、また驚くべきほどでな。あのお方、もう二百三十歳ほどになるじゃろうて」
「に、二百三十……。そんなに!」
「ほっほ、そう驚くことでもないわい。常世では、時の流れが現世とは違うのじゃ。ここでの十年が、向こうの一年に相当するからの」
花緒は、翁の言葉を自分に当てはめてみる。
「では、そうということは、私の十八年も……」
「うむ。常世で換算すれば、百年と八十年――つまり百八十歳じゃな」
「ひゃ、百八十!」
花緒は思わず言葉を失った。常世と現世では、見えない何かが確かに違っている。翁の穏やかな微笑みを前に、改めてこの世界の〝時間〟の深さを思い知らされた。
「そうさの。黒蛇に限らず、妖たちは種族問わず八百歳まで生き抜くゆえ。じゃが、王となれば毒気の猛威に晒され、過去の王たちは次々散っていったのう。常世の空に渦巻く毒を、贄と共に浄化せねばならぬ宿命ゆえじゃ」
花緒は息を呑み、言葉を探す。
「では、贄は……私みたいな人間が、どうして選ばれるんですか?」
「ほっほっ、王が現世へ渡り、浄化の力を持つ者を自ら選ぶのじゃ。女とは限らぬぞ、他国じゃが男の贄もおる。贄を指名する理由は、容姿か、性格か、直感か……さしずめ王の胸三寸じゃな。いずれにせよ、贄として契約しても自由じゃ。誰と添い遂げようが、ひとりで生きていようが、王との絆に縛られることはない。好きに生きよ、花緒様」
「驚いたかの、花緒様。桜河様の年も、また驚くべきほどでな。あのお方、もう二百三十歳ほどになるじゃろうて」
「に、二百三十……。そんなに!」
「ほっほ、そう驚くことでもないわい。常世では、時の流れが現世とは違うのじゃ。ここでの十年が、向こうの一年に相当するからの」
花緒は、翁の言葉を自分に当てはめてみる。
「では、そうということは、私の十八年も……」
「うむ。常世で換算すれば、百年と八十年――つまり百八十歳じゃな」
「ひゃ、百八十!」
花緒は思わず言葉を失った。常世と現世では、見えない何かが確かに違っている。翁の穏やかな微笑みを前に、改めてこの世界の〝時間〟の深さを思い知らされた。
「そうさの。黒蛇に限らず、妖たちは種族問わず八百歳まで生き抜くゆえ。じゃが、王となれば毒気の猛威に晒され、過去の王たちは次々散っていったのう。常世の空に渦巻く毒を、贄と共に浄化せねばならぬ宿命ゆえじゃ」
花緒は息を呑み、言葉を探す。
「では、贄は……私みたいな人間が、どうして選ばれるんですか?」
「ほっほっ、王が現世へ渡り、浄化の力を持つ者を自ら選ぶのじゃ。女とは限らぬぞ、他国じゃが男の贄もおる。贄を指名する理由は、容姿か、性格か、直感か……さしずめ王の胸三寸じゃな。いずれにせよ、贄として契約しても自由じゃ。誰と添い遂げようが、ひとりで生きていようが、王との絆に縛られることはない。好きに生きよ、花緒様」
