「まったく、これから屋敷で一緒に生活するんだから、そんなに警戒心丸出しでどうするの。花緒ちゃん、こいつは蘭之介。鬼の一族なんだよ」
「勝手に紹介するんじゃねえ」
蘭之介が目くじらを立てている。
鬼といえば、高等妖魔の中でも最強と謳われる一族だ。人間の自分など赤子の手をひねるより簡単に殺されてしまうだろう。
花緒は震え上がる。蘭之介はさすがに罰が悪そうな顔をした。
「そんなに怯えんな。採って喰ったりしねえよ」
「は、はい。蘭之介様……」
黙って話を聞いていた桜河が、花緒に軽く手招きをする。
「花緒。ふたりは俺の従者だ」
「従者、ですか……?」
「この地で〝従者〟と呼ばれる者は、主の護衛として常に傍らに仕えて、必要に応じて外敵との戦いや交渉の場にも立つ者たちのことだよ。桜河の従者であるおれと蘭ちゃんも、彼の命を守り、日々の務めを支える大切な存在なんだよ」
「山吹。自分で言うな」
山吹が鼻高々に説明し、すかさず蘭之介が突っ込みを入れている。
桜河が軽く咳払いをする。
「ともかく、これから共に過ごすだろうから、この場へ呼んでおいた。――こちらへ来てくれ。夕餉にしよう」
桜河の招きに応えて、花緒はおそるおそる座敷へ足を踏み入れる。
にこにこと手を振ってくる山吹と、警戒するようにこちらを睨んでいる蘭之介。
対照的なふたりとこの先上手くやっていけるだろうか。花緒は一抹の不安を感じていた。
桜河に招かれるままに、花緒は遠慮がちに入室する。末席に腰かけようとすると、桜河が首を横に振った。
「そこではない。花緒は俺の隣へ」
「え……」
花緒は行き場を失って、その場に突っ立つ。桜河が手で示す先は、彼の隣に当たるやや下座の席だった。
当然、蘭之介や山吹よりも上座。新参者の自分が座る位置ではない。身動きができなくなっている花緒に、山吹が助け舟を出す。
「桜河はああ見えて独占欲が強いんだよ。大切な贄姫様が、他の男の隣に座るなんて黙っていられないんだ。おれたちだって怒られるのは勘弁だから、大人しく隣に座ってやってくれ、花緒ちゃん」
「山吹。余計なことを言うな」
「何でもいいから座れ。俺は空腹なんだよ」
蘭之介が、さっさと桜河のほうへ行けとばかりに手を払う。蘭之介の言葉で皆の膳に目をやれば、どの料理にも箸をつけていないようだった。
花緒を待っていてくれたのだろう。今まで、誰かが自分の食事を待っていてくれた経験はなかった。皆の優しさに申し訳なくなってしまう。
「勝手に紹介するんじゃねえ」
蘭之介が目くじらを立てている。
鬼といえば、高等妖魔の中でも最強と謳われる一族だ。人間の自分など赤子の手をひねるより簡単に殺されてしまうだろう。
花緒は震え上がる。蘭之介はさすがに罰が悪そうな顔をした。
「そんなに怯えんな。採って喰ったりしねえよ」
「は、はい。蘭之介様……」
黙って話を聞いていた桜河が、花緒に軽く手招きをする。
「花緒。ふたりは俺の従者だ」
「従者、ですか……?」
「この地で〝従者〟と呼ばれる者は、主の護衛として常に傍らに仕えて、必要に応じて外敵との戦いや交渉の場にも立つ者たちのことだよ。桜河の従者であるおれと蘭ちゃんも、彼の命を守り、日々の務めを支える大切な存在なんだよ」
「山吹。自分で言うな」
山吹が鼻高々に説明し、すかさず蘭之介が突っ込みを入れている。
桜河が軽く咳払いをする。
「ともかく、これから共に過ごすだろうから、この場へ呼んでおいた。――こちらへ来てくれ。夕餉にしよう」
桜河の招きに応えて、花緒はおそるおそる座敷へ足を踏み入れる。
にこにこと手を振ってくる山吹と、警戒するようにこちらを睨んでいる蘭之介。
対照的なふたりとこの先上手くやっていけるだろうか。花緒は一抹の不安を感じていた。
桜河に招かれるままに、花緒は遠慮がちに入室する。末席に腰かけようとすると、桜河が首を横に振った。
「そこではない。花緒は俺の隣へ」
「え……」
花緒は行き場を失って、その場に突っ立つ。桜河が手で示す先は、彼の隣に当たるやや下座の席だった。
当然、蘭之介や山吹よりも上座。新参者の自分が座る位置ではない。身動きができなくなっている花緒に、山吹が助け舟を出す。
「桜河はああ見えて独占欲が強いんだよ。大切な贄姫様が、他の男の隣に座るなんて黙っていられないんだ。おれたちだって怒られるのは勘弁だから、大人しく隣に座ってやってくれ、花緒ちゃん」
「山吹。余計なことを言うな」
「何でもいいから座れ。俺は空腹なんだよ」
蘭之介が、さっさと桜河のほうへ行けとばかりに手を払う。蘭之介の言葉で皆の膳に目をやれば、どの料理にも箸をつけていないようだった。
花緒を待っていてくれたのだろう。今まで、誰かが自分の食事を待っていてくれた経験はなかった。皆の優しさに申し訳なくなってしまう。
