勇気を振り絞る花緒に、足もとで丸くなっている梵天丸が鼻を鳴らす。
「贄姫。神楽は舞えるカ?」
「神楽、ですか? はい、ひととおり嗜んでまいりました」
泉水家で唯一習っていた習い事は舞だった。妹の珊瑚のように、華族の令嬢として相応しくなるためではない。贄姫の役割を果たすのに舞が必要だという伝承があったからだ。
離れの狭い部屋で、厳しい舞の先生に教わりながらの訓練だった。少しでも足運びが悪ければすぐに先生に扇で叩かれた。練習は過酷だったけれど、それでも自分は、何かひとつでも特技を身につけられて感謝はしていた。
泉水家が贄姫は常世の毒気を清めるために舞が必要だと知っていたのかはわからない。けれどもあの辛い訓練の日々が無駄ではなかったとわかって、花緒はほっとした。
桜河が期待を込めて少しだけ表情を緩める。
「それは良かった。神楽の舞についてはまた改めて話そう。花緒、今日はいろいろと目まぐるしくて疲れただろう。部屋で休むと良い」
「あ、はい。お気遣いありがとうございます」
さすがに顔に疲れが出ていたのだろうか。桜河が気を遣ってくれたようだった。すぐさま座敷の襖が開き、梅が入室する。
「花緒様。お部屋の準備は整っております。こちらへどうぞ」
「ゆっくり休むんだゾ、贄姫! これからたくさん働いてもらうからナ」
「は、はい! 精いっぱい努めさせていただきます」
花緒は梵天丸に応えてから、座ったままの桜河に小さく頭を下げる。まだ怯えの取り切れていない花緒に、桜河は微笑みを返した。
大丈夫だ、と桜河に背中を押されたようで――花緒は強張っていた体から少しずつ力が抜け始めていた。
「贄姫。神楽は舞えるカ?」
「神楽、ですか? はい、ひととおり嗜んでまいりました」
泉水家で唯一習っていた習い事は舞だった。妹の珊瑚のように、華族の令嬢として相応しくなるためではない。贄姫の役割を果たすのに舞が必要だという伝承があったからだ。
離れの狭い部屋で、厳しい舞の先生に教わりながらの訓練だった。少しでも足運びが悪ければすぐに先生に扇で叩かれた。練習は過酷だったけれど、それでも自分は、何かひとつでも特技を身につけられて感謝はしていた。
泉水家が贄姫は常世の毒気を清めるために舞が必要だと知っていたのかはわからない。けれどもあの辛い訓練の日々が無駄ではなかったとわかって、花緒はほっとした。
桜河が期待を込めて少しだけ表情を緩める。
「それは良かった。神楽の舞についてはまた改めて話そう。花緒、今日はいろいろと目まぐるしくて疲れただろう。部屋で休むと良い」
「あ、はい。お気遣いありがとうございます」
さすがに顔に疲れが出ていたのだろうか。桜河が気を遣ってくれたようだった。すぐさま座敷の襖が開き、梅が入室する。
「花緒様。お部屋の準備は整っております。こちらへどうぞ」
「ゆっくり休むんだゾ、贄姫! これからたくさん働いてもらうからナ」
「は、はい! 精いっぱい努めさせていただきます」
花緒は梵天丸に応えてから、座ったままの桜河に小さく頭を下げる。まだ怯えの取り切れていない花緒に、桜河は微笑みを返した。
大丈夫だ、と桜河に背中を押されたようで――花緒は強張っていた体から少しずつ力が抜け始めていた。
