黒蛇様と契りの贄姫

 梅に着替えを手伝ってもらい、彼女が選んだ薄桃色の小袖を羽織った後。花緒は桜河の待つ奥座敷へとやって来た。
 案内を終えた梅が廊下に膝をつき、室内に声をかける。

「桜河様。花緒様をお連れいたしました」

「入ってくれ」

 桜河の低い響きのある声音が返ってくる。花緒はそれだけで緊張して心臓が跳ねてしまった。桜河と取る初めての食事。一体どのように間を持たせたら良いのだろう。
 梅が障子を開けると、座敷内には桜河と梵天丸の姿があった。

「贄姫。元気そうだナ」

「こちらに座ってくれ。贄姫」

 白木の膳の前に座していた桜河が手招きをする。桜河は、花緒の姿を見るなり僅かに微笑んだ。遂に最期の時が来たのかと覚悟を決めていた花緒は、桜河と梵天丸の穏やかな様子に出鼻をくじかれてしまう。
 出入口にぼうっと突っ立ってしまい、桜河が訝し気に首を傾げる。

「どうした? 具合でも悪いのか?」

「あ、いいえ! ご相伴に預かります」

 花緒は我に返り、いそいそと桜河と梵天丸の下座に座す。白木の膳には、炊きたての白米が湯気を上げ、味噌汁、焼き魚、そして季節の野菜の煮物が色とりどりに並べられていた。本当に、毎食丁寧にこしらえられた料理だ。
 まず家長である桜河が膳に箸をつけ、続いて花緒も手を合わせてから料理をいただく。焼き魚をほぐして口に運ぶと、程よい塩気が口内に広がった。

(とても美味しいわ)