白く輝く桜の花びらが蛇の身体へと降りそそぐ。そのたびに黒い靄が淡くほどけ、代わりに柔らかな光が滲み出ていく。
あたりが一面、春霞のような白に満たされた。温かく、穏やかで、胸の奥がふわりと満たされる――そんな不思議な光。
どれほど経っただろうか。
やがて光は静かに溶けていき、庭は元の姿を取り戻していた。
手の中で蛇が身じろぎをする。黒い靄はすでに消え、くすんでいた金の鱗が陽の光を反射して美しく輝いていた。
「いま、何が……。あ、待って!」
呆然としていた少女の手の中で、先ほどまで大人しく収まっていた蛇が弾かれたように蠢き出した。蛇は少女の手をすり抜け、茂みの中へと姿を消す。
「不思議な蛇……」
少女は思った。
(きっとまた、どこかで会えるよね)
願わくば、その時まで元気でいてほしい――そんな祈りを胸に、蛇の消えた草むらを静かに見つめた。まるで夜明けの光が空を満たすように、少女の手のひらで起きた小さな奇跡が、確かにふたりの絆を繋げていた。
その輝きを目の当たりにした蛇は悟る。
この力こそ、いずれ常世を導く希望の光となるのではないか、と。
そして蛇は、名残惜しげに一度だけ振り返り、茂みの向こうへと姿を消した。
***
桜河の声が廊下から響いた。
「花緒、準備はできたか」
「桜河様! 申し訳ございません。すぐ参ります!」
夕方。いつもより早めの夕餉を済ませ、花緒は二度目の巫女装束に袖を通していた。白檀のお香に枯れ葉の匂いが混じり、晩秋の気配が漂っている。
初めての〝浄化の儀〟から早二カ月――今日、再びその儀に臨む。
あたりが一面、春霞のような白に満たされた。温かく、穏やかで、胸の奥がふわりと満たされる――そんな不思議な光。
どれほど経っただろうか。
やがて光は静かに溶けていき、庭は元の姿を取り戻していた。
手の中で蛇が身じろぎをする。黒い靄はすでに消え、くすんでいた金の鱗が陽の光を反射して美しく輝いていた。
「いま、何が……。あ、待って!」
呆然としていた少女の手の中で、先ほどまで大人しく収まっていた蛇が弾かれたように蠢き出した。蛇は少女の手をすり抜け、茂みの中へと姿を消す。
「不思議な蛇……」
少女は思った。
(きっとまた、どこかで会えるよね)
願わくば、その時まで元気でいてほしい――そんな祈りを胸に、蛇の消えた草むらを静かに見つめた。まるで夜明けの光が空を満たすように、少女の手のひらで起きた小さな奇跡が、確かにふたりの絆を繋げていた。
その輝きを目の当たりにした蛇は悟る。
この力こそ、いずれ常世を導く希望の光となるのではないか、と。
そして蛇は、名残惜しげに一度だけ振り返り、茂みの向こうへと姿を消した。
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桜河の声が廊下から響いた。
「花緒、準備はできたか」
「桜河様! 申し訳ございません。すぐ参ります!」
夕方。いつもより早めの夕餉を済ませ、花緒は二度目の巫女装束に袖を通していた。白檀のお香に枯れ葉の匂いが混じり、晩秋の気配が漂っている。
初めての〝浄化の儀〟から早二カ月――今日、再びその儀に臨む。
