黒蛇様と契りの贄姫

 力強くも温かな熱が伝わる繋がれた手は、これから共に歩む大切な人のものだった。

 桜河が花緒の頬に指を添え、そっと顔を上げさせる。

 近づいていくふたりの影は、月明かりの下で静かに重なっていった。

***

 翌朝。

 優しい朝光が差し込む廊下を、花緒は静かに歩いていた。

 夜が明けても胸の奥の熱は引くことなく、頬の余韻だけがほんのりと残っている。

(本当に、桜河様と気持ちが通じ合ったなんて……)

 ――信じられない。

 熱くなってしまった顔を両手で覆うとした、そのときだった。

「おい」

「ひゃっ! す、すみません!」

 思わず身を縮める花緒の前に立っていたのは、長身の男――蘭之介だった。

「そんなに慌てるな。俺だ」

「ら、蘭之介様……!」

「朝から随分と慌ただしいな」

 蘭之介の指摘は最もだ。挙動不審だった自分が恥ずかしくなる花緒に、蘭之介は小さく息を吐いた。

「昨日のことだ。……礼を言いに来た」

「礼?」

「桜河はおまえに救われた。俺にも、山吹にもできなかった。感謝している」

(あ……)

 蘭之介はお礼を伝えるために自分を探してくれていたのだろう。彼の心遣いに、花緒は胸が熱くなる。蘭之介は庭先に視線を向ける。

「……おまえ、少し変わったな」

「え?」

「最初の頃は、後ろばかり見ていた。今は――ちゃんと前を見ている」

 花緒は一瞬、何と返していいかわからず、少しだけ笑みを浮かべる。

 蘭之介が自分を励まそうとしてくれていることがわかったから。

「私がそうなれたのだとしたら、桜河様や蘭之介様、山吹さん、常世の皆さんが支えてくださったからです」

 朝の光が二人の間をやわらかく照らす。