常世で出会った面々は、花緒にとってなくてはならない存在だ。初めて自分の存在を認めてくれ、ここにいてもいいのだと、ここが居場所なのだと教えてくれた。大切な人達。
(これからもずっと、みんなと一緒にいられたらいいな。ずっと、桜河様のおそばにいられたら……)
――って、なにをおこがましい願いを考えているの、私!
ひとりで百面相をしている花緒を、梅が優しく見守っている。
その後、梅が退室をして花緒は美味しくお粥をいただき――桜河の無事を自分の目で確かめるべく、彼の自室へと赴いた。
***
時刻は既に深夜を迎えていた。花緒は桜河の自室を目指し、渡り廊下を進んでいた。昼間に広がる両側の庭園の風景も、今は真っ暗な闇の中。常夜灯の周りには吹き寄せられた枯れ葉のように蛾が飛び回っている。しめやかな空気に溶け込む鈴虫の音が心地よい。こんな真夜中に部屋の外を出歩いたのは初めてだ。普段見ているものとは違った顔を見せる景色に、花緒は背徳感と不思議な高揚感を感じていた。
(このような遅い時間に殿方のお部屋を訪ねるなんて……。桜河様のご迷惑にならないかしら)
それに、はしたない印象を与えないだろうか。けれども、その心配よりも桜河の無事を確かめたいという気持ちが勝っていた。彼の顔を見たら、すぐに退散すれば良いのだ。桜河の贄として、彼を気に掛けるくらいのわがままは許していただけないだろうか。頭の中で考えを巡らせながら、花緒は足早に桜河の部屋へ向かった。
桜河の私室の前に到着すると、部屋の行燈が灯されているのか、室内は仄かに明るい。
「……桜河様、夜分遅くに失礼いたします。花緒です」
花緒が室内に声を掛ける。返事はない。だが、障子越しに耳を澄ますと微かに人の気配を感じた。
花緒は暫く迷った後、そっと障子を開けた。
桜河はこちらに背を向け、文机に肩肘をついて座っていた。彼の無事にほっと胸を撫でおろす。それと同時に、彼の返事を待たずに障子を開けてしまった失態に気づく。
「も、申し訳ありません、勝手に開けてしまいました! ……あれ?」
(これからもずっと、みんなと一緒にいられたらいいな。ずっと、桜河様のおそばにいられたら……)
――って、なにをおこがましい願いを考えているの、私!
ひとりで百面相をしている花緒を、梅が優しく見守っている。
その後、梅が退室をして花緒は美味しくお粥をいただき――桜河の無事を自分の目で確かめるべく、彼の自室へと赴いた。
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時刻は既に深夜を迎えていた。花緒は桜河の自室を目指し、渡り廊下を進んでいた。昼間に広がる両側の庭園の風景も、今は真っ暗な闇の中。常夜灯の周りには吹き寄せられた枯れ葉のように蛾が飛び回っている。しめやかな空気に溶け込む鈴虫の音が心地よい。こんな真夜中に部屋の外を出歩いたのは初めてだ。普段見ているものとは違った顔を見せる景色に、花緒は背徳感と不思議な高揚感を感じていた。
(このような遅い時間に殿方のお部屋を訪ねるなんて……。桜河様のご迷惑にならないかしら)
それに、はしたない印象を与えないだろうか。けれども、その心配よりも桜河の無事を確かめたいという気持ちが勝っていた。彼の顔を見たら、すぐに退散すれば良いのだ。桜河の贄として、彼を気に掛けるくらいのわがままは許していただけないだろうか。頭の中で考えを巡らせながら、花緒は足早に桜河の部屋へ向かった。
桜河の私室の前に到着すると、部屋の行燈が灯されているのか、室内は仄かに明るい。
「……桜河様、夜分遅くに失礼いたします。花緒です」
花緒が室内に声を掛ける。返事はない。だが、障子越しに耳を澄ますと微かに人の気配を感じた。
花緒は暫く迷った後、そっと障子を開けた。
桜河はこちらに背を向け、文机に肩肘をついて座っていた。彼の無事にほっと胸を撫でおろす。それと同時に、彼の返事を待たずに障子を開けてしまった失態に気づく。
「も、申し訳ありません、勝手に開けてしまいました! ……あれ?」
