梅が花緒の纏っている着物に目をやる。泉水家から常世へやって来るまでずっと身に着けていた物だ。土汚れが付着してしまっていた。
梅が僅かに目を見開く。
「まあ! こちらのお着物、よく拝見すると生地に青海波柄の紋様が入っておりますね。銀色ですから光の加減では見えづらいのですが、それが反って控えめで上品でございますね。上質な絹で仕立てられておるようです」
「そう、なのですか? 父に渡されるままに着てまいった物なのですが、恥ずかしながら着物について浅薄なもので……」
「贄姫様が現世からお召しになられたお着物です、大切に預からせていただきますね」
梅は目尻に皺を刻んで微笑む。おそらく着物を預かり、土汚れを綺麗に落としてくれる心づもりなのだろう。
花緒は、自分の持ち物を丁寧に扱われると、まるで自分まで大切にされている気がして嬉しかった。梅の優しさがじんわりと胸に沁みる。
梅は明るく微笑んで両手を叩く。
「さあ、贄姫様! まずは湯殿で湯浴みを済ませてしまいましょう。桜河様より、まず数日間は贄姫様のお体を休めるようにと仰せつかっております。湯浴みが終わりましたら、お部屋でゆっくりとお食事にいたしましょう」
「あ、は、はい……。何から何まで、ご配慮ありがとうございます」
花緒はお礼を伝えながらも、内心は混乱していた。
自分は贄姫だ。常世に着いたらすぐにでも桜河に喰われる運命なのだと覚悟していた。それなのに命を差し出す気配はまるでない。むしろ手厚く迎え入れられている。
(もっと体の健康を取り戻してから喰らうのかしら……?)
わからない。けれども、自分に選択権などないのだ。今はそのまま従うしかない。
梅に背中を押されながら、花緒は屋敷内の湯殿に向かう。
桜河の屋敷での花緒の日常が、始まろうとしていた。
梅が僅かに目を見開く。
「まあ! こちらのお着物、よく拝見すると生地に青海波柄の紋様が入っておりますね。銀色ですから光の加減では見えづらいのですが、それが反って控えめで上品でございますね。上質な絹で仕立てられておるようです」
「そう、なのですか? 父に渡されるままに着てまいった物なのですが、恥ずかしながら着物について浅薄なもので……」
「贄姫様が現世からお召しになられたお着物です、大切に預からせていただきますね」
梅は目尻に皺を刻んで微笑む。おそらく着物を預かり、土汚れを綺麗に落としてくれる心づもりなのだろう。
花緒は、自分の持ち物を丁寧に扱われると、まるで自分まで大切にされている気がして嬉しかった。梅の優しさがじんわりと胸に沁みる。
梅は明るく微笑んで両手を叩く。
「さあ、贄姫様! まずは湯殿で湯浴みを済ませてしまいましょう。桜河様より、まず数日間は贄姫様のお体を休めるようにと仰せつかっております。湯浴みが終わりましたら、お部屋でゆっくりとお食事にいたしましょう」
「あ、は、はい……。何から何まで、ご配慮ありがとうございます」
花緒はお礼を伝えながらも、内心は混乱していた。
自分は贄姫だ。常世に着いたらすぐにでも桜河に喰われる運命なのだと覚悟していた。それなのに命を差し出す気配はまるでない。むしろ手厚く迎え入れられている。
(もっと体の健康を取り戻してから喰らうのかしら……?)
わからない。けれども、自分に選択権などないのだ。今はそのまま従うしかない。
梅に背中を押されながら、花緒は屋敷内の湯殿に向かう。
桜河の屋敷での花緒の日常が、始まろうとしていた。
