黒蛇様と契りの贄姫

 障子を閉めて花緒の部屋を退出した桜河。さきほど見た、花緒の気恥ずかしそうな可憐な笑顔が頭から離れない。

 桜河は花緒の口から、初めて〝現世での贄〟という言葉の重さを知った。

 それは、常世での神聖な存在とはまるで違っていた。妖の王によって定められ、救いをもたらす存在ではなく、人々の恐れと偏見を一身に背負わされるもの。

 花緒の纏う静かな笑みの奥に、どれほどの痛みが沈んでいたのか――想像するだけで胸の奥が痛んだ。

「…………」

 桜河は表情を引き締める。

 失いたくないもの、大切なものを守るために自分にできるのは――。

 桜河は密かに拳を強く握りしめる。そうして静かにその場を立ち去った。