黒蛇様と契りの贄姫

 破れた障子から覗く月明かり。その青白い光を見上げて、花緒(かお)は目を細めた。
 薄暗い離れの部屋には、自分以外に人影はない。いつもの孤独な夜だった。

 時は日本文化と西洋文化が入り混じる和洋折衷の時代。
 まだ人と妖の住む土地の境界が曖昧だった頃――。
 『帝都』の華族・泉水家(いずみけ)は、この地方一帯を治める大地主だ。その名家の長女として生まれた花緒。彼女が八歳を迎えた時、身体に異変が訪れた。彼女の首もとに桜の痣が咲いたのだ。

 それは、(あやかし)の王『黒蛇(くろへび)』に生贄として捧げられる少女――『贄姫(にえひめ)』となる印だった。