返却期限のある人生

 結衣は通知を裏返した。
 紙の端が少し波打っている。何度も握りしめた跡だ。

 裏面には、たった一行の文字が印刷されていた。

 これは、誰の人生でしたか?

 結衣は息を止める。
 問いは、説明でも警告でもなかった。答えを要求する形をしているのに、返事を書く欄はない。まるで、考えることそのものを命じられているみたいだった。

 その瞬間、ページの下半分が空白になる。
 文字も、段落も、時間も、そこから消えた。

 結衣はその白さを見つめる。
 自分の人生だと信じてきたものの輪郭が、同じように薄れていく気がした。

 誰の人生だったのか。
 考えようとした瞬間、頭の奥がまた静かになる。

 問いだけが残る。
 答えのないまま、空白のページが、結衣と読者の前に開かれていた。