返却期限のある人生

高校。
 節目ごとに、結衣の進路と性格、気をつけるべき点が母の文字で書き込まれていた。

 ――我慢強い子
 ――迷わないように導く
 ――間違えないように

 ページをめくるたび、結衣の過去が並ぶ。自分が考え、選び、決めてきたと思っていた人生の節目が、すべて、先に書かれていた。

 結衣はノートを閉じた。指先が震えているのに、理由が分からない。怒りでも悲しみでもない。もっと名前のない感情だった。

 きれいに整理された人生の中に、結衣の選択はなかった。
 あったのは、母の文字だけだった。

 部屋を見渡す。整いすぎた空間が、急に息苦しくなる。
 ここにあるものは全部、正しい。正しくて、間違っている。

 結衣はノートを胸に抱えたまま、しばらく動けずにいた。
 まるで、自分の人生を初めて見つけてしまった人みたいに。