色々なことがありながら、十月に入った。今日はテーマパークに行く日だ。
ロアさんが、人が多すぎず、季節もいい時期を提案してくれた。夏の間は待ち時間が地獄だからと言っていた。確かにそれはそうだ。
「案内役を頼んだのはロアだけなんだけど」
聖凪さんが苦々しく言う。入り口前に着くと、ロアさんだけでなく、ライトさんとソラさんもいた。
ロアさんは全体的に白っぽい服装で、王子様みたいに見える。そんな優しく微笑むロアさんの隣で、ダメージジーンズとTシャツを着こなしたライトさんが胸を張った。
「こんな楽しそうなイベント、俺が来ないわけがないだろ!」
「俺は連れて来られただけ……」
ライトさんが元気に言うと、ソラさんが隣でぼそっと呟く。ソラさんは全体的に黒っぽい服装で、背が高いのもあって、ロアさんの騎士みたいに見えた。
そして聖凪さんはというと……なんだか、悪役っぽい。今日はゆるっとしてないジーンズとオシャレなシャツでシンプルなのに、髪色のせいかな? 顔がクールでイケメンすぎるせいかな?
聖凪さんとロアさんとソラさんが並ぶと、このテーマパークのキャストみたいだ。ライトさんは可愛い系だから、俺の唯一の友達みたいに感じる。平凡な俺が親近感を抱いて申し訳ないけど……。
一方の俺は、聖凪さんがコーディネートしてくれた服を着ていた。普段愛用しているパーカー系はフードが引っかかると危ないからという理由で、聖凪さんに却下された。
「明良君、今日は雰囲気が違うね」
「えっ? はいっ、聖凪さんに選んで貰いましたっ」
「へぇ……聖凪、服をプレゼントしたんだ?」
「しようとしたら、自分で買うと言って聞かなかったんだよ」
「そっか。残念だったね」
プレゼントできなくてどうして残念なんだろう? 首を傾げていると、ロアさんはにっこりと笑った。
聖凪さんにお店で選んで貰った服は、白のオシャレっぽい柄のTシャツと、薄いストライプの入った水色のシャツだ。シャツは厚手で、夜でも寒くないだろうし日中に暑ければ腰に巻けばいいと言われた。下もジーンズじゃなくて、動きやすい黒のスラックスだ。
なんだか、大人っぽくなった気がする。鏡に映った姿を見てそう思ったのに、ロアさんたちを見ると全然子供っぽいなと思ってしまった。
「じゃあ、行こうか」
「しゅっぱーつ!」
「うるさい」
聖凪さんは溜め息をついたけど、前を行くロアさんたちについて行く。
「明良、騒がしくなってごめん」
「いえ、大丈夫です。というか、大勢でテーマパークも憧れがあったので楽しみです」
「そっか。明良がいいならいいか」
いいどころか、ライブ動画を観て以来ファンになってしまったご本人様方とテーマパークなんて、ご褒美でしかない。最近では、前世の俺が大変な徳を積んだとしか思えなくなってきた。
入場してからはロアさんがスマホや色んな場所で何かをしてくれた。待ってて、と言われて俺は聖凪さんと待機していたから、何があったか分からないけど、キャラクターのショーを二つも観られるらしい。
二つもですか!? と大声で喜んでしまったけど、周囲も賑やかだったし、ロアさんは俺の頭を撫でて「可愛い子」と言ってくれた。騒いでも好意的に思ってくれたことに心の底からホッとした。
「次は、装備だね」
近くの店に入ると、ロアさんはそう言った。
「装備ですか?」
「明良君は、猫耳とうさ耳どっちがいい?」
「明良は、猫で」
「了解」
「えっ、聖凪さん待ってっ」
そう言ったのに、薄いピンク色のふわふわしたカチューシャを頭につけられる。
「耳が垂れてたらウサギでも良かったと思うけど、立ってる耳はちょっと解釈違い」
「聖凪さんの中の俺の解釈って……」
「やっぱり可愛い」
聖凪さんは俺を見て満足そうに頷いた。
立ってるうさぎの耳が解釈違いってどういうこと。この猫の耳は立ってるけどいいのかな?
「俺はうさぎー!」
「うん、似合うよ。可愛い」
ロアさんに褒められたライトさんは嬉しそうだ。金髪に白いうさぎの耳、確かにライトさんがつけると可愛い。
「ソラは……クマかな。うん、可愛い」
少し屈んだソラさんの頭に、茶色のふわふわしたカチューシャをつける。
ロアさんって、ライトさんとソラさんの扱い同じなんだけど……ソラさんはいいのかな? ちょっと心配したものの、ソラさんはクマ耳をつけたまま頷いたから、いいんだ、と安心した。
「聖凪は、黒猫があれば良かったんだけどね」
「黒猫、似合いそうですね」
「だよね。明良君分かってるね」
ロアさんは上機嫌でカチューシャの棚を眺めた。
「紫の猫耳は、俺の髪色とかぶるからちょっとなぁ……明良君と同じだと解釈違いって言われそうだし、この垂れた黒い犬にするかな」
「……まあ、これなら」
そう言って頭につけるけど、聖凪さん、それもすごく可愛いグッズです。
垂れた耳が可愛い……あ、もしかしてこれが解釈違いならぬ解釈一致ってこと?
「じゃあレジに行こっか」
ロアさんに続いて、俺たちもレジに向かう。途中で聖凪さんが買いたいものを見つけたと言って離れた。
「明良君、お土産の店には最後に行く予定だけど、ここで他に買いたい物はない?」
「はい。大丈夫です」
そう答えたらまた「いい子」と撫でられた。ロアさんって、弟さんとか妹さんがいるのかな?
お店の外に出て聖凪さんを待っていたら、ロアさんが俺の耳に触れた。
「このピアスも、聖凪が選んだの?」
「これは入学祝いにってプレゼントして貰いました」
「へぇ。自分の誕生石をプレゼントかぁ」
にっこりとした笑顔に、なんだか背筋がぞわっとした。俺、いけないこと言っちゃった?
ロアさんの方を見られずにいると、いつも通りの優しい声が返ってくる。
「似合ってるよ。かっこいい」
「っ、ありがとうございますっ」
ホッとしたのと嬉しいので、また声が大きくなってしまった。
「ロア。明良に触るな」
「はいはい。嫉妬深いなぁ」
ロアさんは肩を竦めて俺から離れた。その場所に聖凪さんが入って、袋の中から何かを取り出す。
「明良、これバッグにつけて」
「えっ、かっこいい!」
買いたい物ってこれだったんだ。地球儀みたいなデザインのキーホルダーで、レトロな色合いがかっこいい。聖凪さんが、俺のボディバッグにつけてくれる。
「お揃いにしたかったから、プレゼント」
「ええっ、ありがとうございますっ。お揃い、嬉しいです」
見せてくれたバッグに同じものがついてて、頬が緩む。こういうさりげなくつけられるお揃いっていいなぁ。聖凪さんのこと尊敬してるし大好きだし、本当に嬉しい。
「……ねぇ、なんでこの感じで、まだ付き合ってないの?」
「明良が純粋で可愛いから」
「こんなノロケるくせに、なんでまだ付き合ってないの?」
「一目惚れしたって言ったらスルーされた」
聖凪さんとロアさんが何か話してたけど、ライトさんの「次いこー!」という声と被って聞こえなかった。
◇◇◇
「俺、もうここに住みます」
夕方になって、軽食を食べながら感嘆の溜め息をつく。
アトラクションはどれも楽しくて、二つのショーには感動しすぎて、もう帰りたくない。ここに住みたい。
「だってよ。聖凪、筆頭株主になったら?」
「無理だろ」
「聖凪なら、パソコンでいじれば出来ないことはない」
「普通に犯罪勧めるな」
うん、ソラさんが言うと全然冗談に聞こえないなぁ。
「ってか、キャストになれば実質住めるくない?」
「一番まともなこと言うのがライトって、やばいだろ」
聖凪さんが真面目な顔で言う。普段のライトさんがどんな人か、今の会話だけで分かる気がするな。
「ねえ、あのテーブル……」
俺の斜め前から、女の子の声が聞こえた。
「一人だけ浮いてない?」
浮いてますよね!? 逆に浮いてなかったらびっくりだ。女の子たちの方は見られないけど、俺のことだよな。聖凪さんたちのかっこよさとオーラの中にいるんだから、絶対に俺のことだ。
「誰かの弟かなぁ。可愛いね」
「ピンクの猫耳似合ってる~。うちの弟じゃ絶対あんなに可愛くならないよ」
「うちの兄も。ああいう可愛い男の子は、遺伝子レベルで違うんだろうなぁ」
……褒められてる?
陰口だと思って構えてたのに、可愛いを連呼された。かっこいいの方がいいけどそれはこの中じゃ無理だし、むしろ最上級の褒め言葉じゃないか?
女の子たちが店を出て行くと、聖凪さんたちは突然笑い出した。
「明良君の悪口だったら言い返そうと思ってたけど、違ったね」
「明良は遺伝子レベルで可愛いんだよ」
聖凪さんがきっぱりと言い切る。最近の聖凪さんの中で、俺ってどういう扱いになってるんだろう……ペット?
「でもほんと、俺たちと違って可愛いよな」
ライトさんにまで可愛いって言われた。
「かっこいいって、どうすれば言われるんでしょうか……」
「大会に出てた時の明良君は、すごくかっこよかったよ」
「え?」
「あれ……? 聖凪、もう言ったんでしょ?」
「言ったことをロアに言ったことは明良に言ってない」
「どういう謎かけなの」
ロアさんは苦笑して、俺の方を向き直る。
「聖凪、試合の間ずっと明良君のことかっこいいって言ってたよ。その後もずっと。最近ではアルバイト頑張ってる時にかっこいいって言ってたな」
「そうなんですかっ?」
「本人にバラすな」
「じれったいから背中を押したくなるんだよね」
クスッと綺麗に笑って、ロアさんは聖凪さんを見つめる。
なんだろう、この感じ……ただお互いを見てるだけなのに、モヤッとする。無意識に胸を押さえると、聖凪さんが俺の背中をそっと撫でた。
「気分悪い? 疲れた?」
心配そうな瞳が、俺を映す。聖凪さんが俺を見てくれたら、モヤモヤが一瞬で消えた。……もしかして俺、ロアさんに嫉妬してたってこと?
「すみません、俺、聖凪さんとロアさんが仲良くて嫉妬したみたいです」
「嫉妬……?」
「お兄ちゃんを取られたくない、みたいな……子供っぽくてすみません」
「明良君、可愛い。許す」
ロアさんがキラキラした笑顔で、グッと親指を立てた。でも聖凪さんは表情が読めない。大事な友達に嫉妬したなんて、幻滅されたかな……。
「……嫉妬しなくても、俺には明良だけだよ」
背中をポンと叩かれるけど、声に元気がない。幻滅じゃなくて、嫌われたかも……。途端に怖くなる。
「聖凪は、明良君が好きだよね?」
「は? 好きに決まってるけど?」
「柄が悪いなぁ」
「好きに決まってるからキレるだろ」
「大抵の人はキレないんだよ」
ロアさんはそう言って、俺に向かってにっこりと笑った。俺が怖がってるのを分かってくれて、今の会話をしてくれたんだ。こんなに優しいロアさんに嫉妬するなんて、俺が馬鹿だった。
「明良君、そろそろナイトショーが始まるから、行こうか」
「はいっ」
「聖凪は、分かってるね?」
「自信がない」
「なくてもどうにかしろ」
最後はソラさんが辛辣に言い放った。高一から同じクラスだと言ってたから、厳しい言葉もかけられるくらい信頼関係があるんだろうな。なんで聖凪さんが怒られてるのかは分からないけど。
ショーが始まって、俺の視線は釘付けになった。
宝石みたいな光が、魔法みたいだ。音楽に合わせて光とキャラクターが踊る。まるで自分も魔法の国の住人になったような気分だった。
「最高でした……」
終わってからもしばらくその場所を見つめ続けてしまう。
ロアさんが、全体が綺麗に見えるエリアに案内してくれた。昼に何かお礼をしたいと言った時に、何か和食を作って欲しいと言われた。これは和食の懐石をお出ししなければ。
名残惜しいけどその場を離れて、ばあちゃんたちと友達へのお土産を買う。出口が近づくと寂しくなって、何度も振り返ってしまった。
「っ……聖凪さん?」
「また一緒に来よう」
「はい……」
ゲートをくぐって人もまばらになったところで、そう言ってくれた。
……俺、今、頬にキスされた?
気のせいと思うには、顔に影がかかった。聖凪さんの髪が顔に触れる感触もあった。
「っ……」
どうしてキスされたの? 俺がしょんぼりしてたから? でもそれで男にキスする? 頬だけど、キスはキスだよな?
でも……一番困惑してるのは、それを嫌だと思うより、嬉しいと思ってる俺の心だった。
帰ってからもキーホルダーとカチューシャを眺めて、幸せな気持ちでベッドに横になった。
最後に衝撃的なことがあって、帰り道では寂しいと思う暇がなかった。今も寂しいというより、あのキスを思い出してドキドキしている。
「どうしてキス……」
言葉にするとまた顔が熱くなった。
聖凪さんのこと尊敬してると思ってたけど……これって、そういうことなの?
それを伝える勇気も、どうしてキスしたのかと訊く勇気もない。今の生活が幸せだから、聖凪さんの望まない感情を押し付けて、この幸せを壊したくなかった。
ロアさんが、人が多すぎず、季節もいい時期を提案してくれた。夏の間は待ち時間が地獄だからと言っていた。確かにそれはそうだ。
「案内役を頼んだのはロアだけなんだけど」
聖凪さんが苦々しく言う。入り口前に着くと、ロアさんだけでなく、ライトさんとソラさんもいた。
ロアさんは全体的に白っぽい服装で、王子様みたいに見える。そんな優しく微笑むロアさんの隣で、ダメージジーンズとTシャツを着こなしたライトさんが胸を張った。
「こんな楽しそうなイベント、俺が来ないわけがないだろ!」
「俺は連れて来られただけ……」
ライトさんが元気に言うと、ソラさんが隣でぼそっと呟く。ソラさんは全体的に黒っぽい服装で、背が高いのもあって、ロアさんの騎士みたいに見えた。
そして聖凪さんはというと……なんだか、悪役っぽい。今日はゆるっとしてないジーンズとオシャレなシャツでシンプルなのに、髪色のせいかな? 顔がクールでイケメンすぎるせいかな?
聖凪さんとロアさんとソラさんが並ぶと、このテーマパークのキャストみたいだ。ライトさんは可愛い系だから、俺の唯一の友達みたいに感じる。平凡な俺が親近感を抱いて申し訳ないけど……。
一方の俺は、聖凪さんがコーディネートしてくれた服を着ていた。普段愛用しているパーカー系はフードが引っかかると危ないからという理由で、聖凪さんに却下された。
「明良君、今日は雰囲気が違うね」
「えっ? はいっ、聖凪さんに選んで貰いましたっ」
「へぇ……聖凪、服をプレゼントしたんだ?」
「しようとしたら、自分で買うと言って聞かなかったんだよ」
「そっか。残念だったね」
プレゼントできなくてどうして残念なんだろう? 首を傾げていると、ロアさんはにっこりと笑った。
聖凪さんにお店で選んで貰った服は、白のオシャレっぽい柄のTシャツと、薄いストライプの入った水色のシャツだ。シャツは厚手で、夜でも寒くないだろうし日中に暑ければ腰に巻けばいいと言われた。下もジーンズじゃなくて、動きやすい黒のスラックスだ。
なんだか、大人っぽくなった気がする。鏡に映った姿を見てそう思ったのに、ロアさんたちを見ると全然子供っぽいなと思ってしまった。
「じゃあ、行こうか」
「しゅっぱーつ!」
「うるさい」
聖凪さんは溜め息をついたけど、前を行くロアさんたちについて行く。
「明良、騒がしくなってごめん」
「いえ、大丈夫です。というか、大勢でテーマパークも憧れがあったので楽しみです」
「そっか。明良がいいならいいか」
いいどころか、ライブ動画を観て以来ファンになってしまったご本人様方とテーマパークなんて、ご褒美でしかない。最近では、前世の俺が大変な徳を積んだとしか思えなくなってきた。
入場してからはロアさんがスマホや色んな場所で何かをしてくれた。待ってて、と言われて俺は聖凪さんと待機していたから、何があったか分からないけど、キャラクターのショーを二つも観られるらしい。
二つもですか!? と大声で喜んでしまったけど、周囲も賑やかだったし、ロアさんは俺の頭を撫でて「可愛い子」と言ってくれた。騒いでも好意的に思ってくれたことに心の底からホッとした。
「次は、装備だね」
近くの店に入ると、ロアさんはそう言った。
「装備ですか?」
「明良君は、猫耳とうさ耳どっちがいい?」
「明良は、猫で」
「了解」
「えっ、聖凪さん待ってっ」
そう言ったのに、薄いピンク色のふわふわしたカチューシャを頭につけられる。
「耳が垂れてたらウサギでも良かったと思うけど、立ってる耳はちょっと解釈違い」
「聖凪さんの中の俺の解釈って……」
「やっぱり可愛い」
聖凪さんは俺を見て満足そうに頷いた。
立ってるうさぎの耳が解釈違いってどういうこと。この猫の耳は立ってるけどいいのかな?
「俺はうさぎー!」
「うん、似合うよ。可愛い」
ロアさんに褒められたライトさんは嬉しそうだ。金髪に白いうさぎの耳、確かにライトさんがつけると可愛い。
「ソラは……クマかな。うん、可愛い」
少し屈んだソラさんの頭に、茶色のふわふわしたカチューシャをつける。
ロアさんって、ライトさんとソラさんの扱い同じなんだけど……ソラさんはいいのかな? ちょっと心配したものの、ソラさんはクマ耳をつけたまま頷いたから、いいんだ、と安心した。
「聖凪は、黒猫があれば良かったんだけどね」
「黒猫、似合いそうですね」
「だよね。明良君分かってるね」
ロアさんは上機嫌でカチューシャの棚を眺めた。
「紫の猫耳は、俺の髪色とかぶるからちょっとなぁ……明良君と同じだと解釈違いって言われそうだし、この垂れた黒い犬にするかな」
「……まあ、これなら」
そう言って頭につけるけど、聖凪さん、それもすごく可愛いグッズです。
垂れた耳が可愛い……あ、もしかしてこれが解釈違いならぬ解釈一致ってこと?
「じゃあレジに行こっか」
ロアさんに続いて、俺たちもレジに向かう。途中で聖凪さんが買いたいものを見つけたと言って離れた。
「明良君、お土産の店には最後に行く予定だけど、ここで他に買いたい物はない?」
「はい。大丈夫です」
そう答えたらまた「いい子」と撫でられた。ロアさんって、弟さんとか妹さんがいるのかな?
お店の外に出て聖凪さんを待っていたら、ロアさんが俺の耳に触れた。
「このピアスも、聖凪が選んだの?」
「これは入学祝いにってプレゼントして貰いました」
「へぇ。自分の誕生石をプレゼントかぁ」
にっこりとした笑顔に、なんだか背筋がぞわっとした。俺、いけないこと言っちゃった?
ロアさんの方を見られずにいると、いつも通りの優しい声が返ってくる。
「似合ってるよ。かっこいい」
「っ、ありがとうございますっ」
ホッとしたのと嬉しいので、また声が大きくなってしまった。
「ロア。明良に触るな」
「はいはい。嫉妬深いなぁ」
ロアさんは肩を竦めて俺から離れた。その場所に聖凪さんが入って、袋の中から何かを取り出す。
「明良、これバッグにつけて」
「えっ、かっこいい!」
買いたい物ってこれだったんだ。地球儀みたいなデザインのキーホルダーで、レトロな色合いがかっこいい。聖凪さんが、俺のボディバッグにつけてくれる。
「お揃いにしたかったから、プレゼント」
「ええっ、ありがとうございますっ。お揃い、嬉しいです」
見せてくれたバッグに同じものがついてて、頬が緩む。こういうさりげなくつけられるお揃いっていいなぁ。聖凪さんのこと尊敬してるし大好きだし、本当に嬉しい。
「……ねぇ、なんでこの感じで、まだ付き合ってないの?」
「明良が純粋で可愛いから」
「こんなノロケるくせに、なんでまだ付き合ってないの?」
「一目惚れしたって言ったらスルーされた」
聖凪さんとロアさんが何か話してたけど、ライトさんの「次いこー!」という声と被って聞こえなかった。
◇◇◇
「俺、もうここに住みます」
夕方になって、軽食を食べながら感嘆の溜め息をつく。
アトラクションはどれも楽しくて、二つのショーには感動しすぎて、もう帰りたくない。ここに住みたい。
「だってよ。聖凪、筆頭株主になったら?」
「無理だろ」
「聖凪なら、パソコンでいじれば出来ないことはない」
「普通に犯罪勧めるな」
うん、ソラさんが言うと全然冗談に聞こえないなぁ。
「ってか、キャストになれば実質住めるくない?」
「一番まともなこと言うのがライトって、やばいだろ」
聖凪さんが真面目な顔で言う。普段のライトさんがどんな人か、今の会話だけで分かる気がするな。
「ねえ、あのテーブル……」
俺の斜め前から、女の子の声が聞こえた。
「一人だけ浮いてない?」
浮いてますよね!? 逆に浮いてなかったらびっくりだ。女の子たちの方は見られないけど、俺のことだよな。聖凪さんたちのかっこよさとオーラの中にいるんだから、絶対に俺のことだ。
「誰かの弟かなぁ。可愛いね」
「ピンクの猫耳似合ってる~。うちの弟じゃ絶対あんなに可愛くならないよ」
「うちの兄も。ああいう可愛い男の子は、遺伝子レベルで違うんだろうなぁ」
……褒められてる?
陰口だと思って構えてたのに、可愛いを連呼された。かっこいいの方がいいけどそれはこの中じゃ無理だし、むしろ最上級の褒め言葉じゃないか?
女の子たちが店を出て行くと、聖凪さんたちは突然笑い出した。
「明良君の悪口だったら言い返そうと思ってたけど、違ったね」
「明良は遺伝子レベルで可愛いんだよ」
聖凪さんがきっぱりと言い切る。最近の聖凪さんの中で、俺ってどういう扱いになってるんだろう……ペット?
「でもほんと、俺たちと違って可愛いよな」
ライトさんにまで可愛いって言われた。
「かっこいいって、どうすれば言われるんでしょうか……」
「大会に出てた時の明良君は、すごくかっこよかったよ」
「え?」
「あれ……? 聖凪、もう言ったんでしょ?」
「言ったことをロアに言ったことは明良に言ってない」
「どういう謎かけなの」
ロアさんは苦笑して、俺の方を向き直る。
「聖凪、試合の間ずっと明良君のことかっこいいって言ってたよ。その後もずっと。最近ではアルバイト頑張ってる時にかっこいいって言ってたな」
「そうなんですかっ?」
「本人にバラすな」
「じれったいから背中を押したくなるんだよね」
クスッと綺麗に笑って、ロアさんは聖凪さんを見つめる。
なんだろう、この感じ……ただお互いを見てるだけなのに、モヤッとする。無意識に胸を押さえると、聖凪さんが俺の背中をそっと撫でた。
「気分悪い? 疲れた?」
心配そうな瞳が、俺を映す。聖凪さんが俺を見てくれたら、モヤモヤが一瞬で消えた。……もしかして俺、ロアさんに嫉妬してたってこと?
「すみません、俺、聖凪さんとロアさんが仲良くて嫉妬したみたいです」
「嫉妬……?」
「お兄ちゃんを取られたくない、みたいな……子供っぽくてすみません」
「明良君、可愛い。許す」
ロアさんがキラキラした笑顔で、グッと親指を立てた。でも聖凪さんは表情が読めない。大事な友達に嫉妬したなんて、幻滅されたかな……。
「……嫉妬しなくても、俺には明良だけだよ」
背中をポンと叩かれるけど、声に元気がない。幻滅じゃなくて、嫌われたかも……。途端に怖くなる。
「聖凪は、明良君が好きだよね?」
「は? 好きに決まってるけど?」
「柄が悪いなぁ」
「好きに決まってるからキレるだろ」
「大抵の人はキレないんだよ」
ロアさんはそう言って、俺に向かってにっこりと笑った。俺が怖がってるのを分かってくれて、今の会話をしてくれたんだ。こんなに優しいロアさんに嫉妬するなんて、俺が馬鹿だった。
「明良君、そろそろナイトショーが始まるから、行こうか」
「はいっ」
「聖凪は、分かってるね?」
「自信がない」
「なくてもどうにかしろ」
最後はソラさんが辛辣に言い放った。高一から同じクラスだと言ってたから、厳しい言葉もかけられるくらい信頼関係があるんだろうな。なんで聖凪さんが怒られてるのかは分からないけど。
ショーが始まって、俺の視線は釘付けになった。
宝石みたいな光が、魔法みたいだ。音楽に合わせて光とキャラクターが踊る。まるで自分も魔法の国の住人になったような気分だった。
「最高でした……」
終わってからもしばらくその場所を見つめ続けてしまう。
ロアさんが、全体が綺麗に見えるエリアに案内してくれた。昼に何かお礼をしたいと言った時に、何か和食を作って欲しいと言われた。これは和食の懐石をお出ししなければ。
名残惜しいけどその場を離れて、ばあちゃんたちと友達へのお土産を買う。出口が近づくと寂しくなって、何度も振り返ってしまった。
「っ……聖凪さん?」
「また一緒に来よう」
「はい……」
ゲートをくぐって人もまばらになったところで、そう言ってくれた。
……俺、今、頬にキスされた?
気のせいと思うには、顔に影がかかった。聖凪さんの髪が顔に触れる感触もあった。
「っ……」
どうしてキスされたの? 俺がしょんぼりしてたから? でもそれで男にキスする? 頬だけど、キスはキスだよな?
でも……一番困惑してるのは、それを嫌だと思うより、嬉しいと思ってる俺の心だった。
帰ってからもキーホルダーとカチューシャを眺めて、幸せな気持ちでベッドに横になった。
最後に衝撃的なことがあって、帰り道では寂しいと思う暇がなかった。今も寂しいというより、あのキスを思い出してドキドキしている。
「どうしてキス……」
言葉にするとまた顔が熱くなった。
聖凪さんのこと尊敬してると思ってたけど……これって、そういうことなの?
それを伝える勇気も、どうしてキスしたのかと訊く勇気もない。今の生活が幸せだから、聖凪さんの望まない感情を押し付けて、この幸せを壊したくなかった。

