恋のエンギ指導が本気(ガチ)すぎます!

 
 ●〇●〇



 翌日の昼休み。

 2年1組のおれと麻青は大急ぎで昼食を済ませ、ふたつ隣のクラス、2年3組を訪ねた。廊下から教室内を覗いてみる。
 目立つ顔なので、いればすぐわかるはずだ。でも……いない、か?

「あの。香納くん、どこにいるかわかる?」

 麻青が、ちょうど教室を出ようと歩いてきた生徒に話しかけた。

「香納? ああ、あそこで寝てんじゃん」

 振り返って彼が指さしたのは、窓際の後ろから2番目の席。主は机上に突っ伏して寝ていて、顔はまったく見えない。うーん、これは見落とす。

「爆睡してる感じだね……どうする、あらた?」

「……行こう。頼むなら一刻も早いほうがいい」

「……そうだね。よし、行こう」

 示し合わせたようにふたりでごくっとつばを飲んで、おれたちは室内に入った。香納の席の近くまで行くと、ここは部長のおれがと、我先に声をかける。

「あ、あの、香納くん」

「…………」

「か、香納くん! 寝てるとこ悪いんだけど、ちょっといいかな」

「…………」

「かの、香納くん? えっと、あの、もしもし……?」

 おそるおそる肩に触れて軽く揺すった。

「ぁ……?」
「!」

 反応があった。ふーっと長く息を吐くこもった音がして、ゆっくりと頭が持ち上がる。

「……? なんだよ……」

 気だるげな声を漏らしつつ、右手で目にかかる長めの前髪を無造作にかき上げた。
 見上げられ、整った顔立ちが額まであらわになる。

(うわ……やっぱ、超絶かっこいいな……)

 二重は薄め、全体的にややきつめに見えるけれど、パーツ配置が完ぺきというのか、とにかく綺麗な顔をしているのだ。

 その分、るー先輩にあるような愛嬌はなくて、作り物めいた印象だったりもするのだけど……本当に、男のおれでも見惚れるくらいにかっこいい。
 髪はストレートで、やや硬そうだ。色素が薄いのか、地毛だろうけど茶色っぽい。

 ──と、久々に見る香納をついまじまじと観察してしまったけれど、

「……1年がなんの用だよ」

 険しい目つきで見上げ、うっとうしそうに聞かれて、はっと我に返った。

「えっ……い、1年じゃないよ。えっと……1組の唯木あらたと穂村麻青、です。演劇部で、前にも話したことあるけど……」

「たしか、去年の9月に学食で話したよね。覚えてないかな……?」

 おれの名乗りに、麻青が最後に話した時のことを付け足す。

「あぁ……?」

 香納は起こした体を、そのまま低い背もたれにあずけた。古びた椅子がギィと鳴る。

「覚えてねー。チビだから1年かと思ったわ」
「ぐっ……」

(そ、そりゃあおれも168㎝で、チビコンビだけど! そんなはっきり言わなくても!)

 内心で叫びつつ、おれは相変わらずだなぁと思っていた。
 こういう感じの男なのだ。前話した時もそうだった。
 不愛想で、ぞんざいな口調。冷めているというか、人と話すのすら面倒がっているように見える。
 けして不良とか、自分から危害を加えようとしてくるほうじゃないけれど、人を寄せ付けたくないオーラが出まくっているのだ。
 親しい友達もいなさそうで、典型的な一匹狼タイプらしい。

「で? 人の安眠を妨害してなんの話」

「ご、ごめん。起こして。大事な話で……」

「だからなに」
「ひっ」

(ううっ、機嫌悪そうだなぁ。でもひるんでる場合じゃない、ちゃんと頼まないと!)

 怖気づきそうになる心を必死で鼓舞して、おれは本題に入った。

「えっと、実は演劇部の──」
「部活出ろは断る」

(言う前に断られた! ──い、いや、まだだ! まだ何も伝えられてない!)

「ぶ、部活出ろはその通りなんだけど、これまでとは事情が違うんだ! お願いしますっ、まずは全部話を聞いてくださいっ」

 おれはガバッと頭を下げた。角度45度、最敬礼だ。隣で麻青も「お願いしますっ!」と続いてくれる。

「…………だる。やめろそういうの」

 げんなりした声が聞こえ、おずおずと顔を上げると、冷めきった目がこちらを見ていた。
 数秒、視線を合わせた後、香納がスッと目線を外す。あきらめたようなつぶやきが落ちた。

「……わかった、話せよ」
「! あ、ありがとう!」

 おれは勢い込んで説明した。
 9月に地区大会があること。主演の先輩が骨折で出場できなくなったこと。現役部員には代役の適任者がいないこと。

「──っていうわけで、香納なら主役のイメージにぴったりなんだ。地区大会だけの代役でいいから、出てもらえないかなって……考えて、もらえないかな?」

 最後に、そう話をまとめて頼んだけれど。

「断る」

 思案する間もなく、秒殺で返事が返ってきた。 

(ぐふっ……、いやいや、めげるな! 予想通りの返答だ!)

「そ、そこをなんとか……。ほら、前も言ったと思うけど、読み聞かせしてるのを見かけた先輩が、めちゃくちゃ上手だったって褒めてて。きっと香納、演技の才能が──」

「ない。おまえ、何を根拠に言ってんの」

 香納の声がこれまで以上に鋭くなる。明らかな嫌悪……もしくは怒りがにじんでいた。
 瞳は、突き刺すようにおれをにらみ上げてくる。

「っ……」

 おれはひゅっと体が冷える気がした。
 香納の眼差しは氷みたいだ。鋭くとがった、氷のピック。言い訳することなんて許されないような、した瞬間あっさり砕かれてしまいそうな、あらがえない強さがある。
 怖い。でも同時に、

(この目力……すごいかも……この目を前にしたら、圧倒される……)

 頭の片隅で、おれはのんきにもそんなことを考えてしまっていた。
 それくらい、なんていうか、身のすくむような目だったんだ。もしこの目で何かを訴えられたら、すごい力があると思う。それは、役者としての魅力だ。

(身長あるし、声も低めだけどよく通りそうな声だし。役者だったら、かなり映えるのにな……)

「おい。聞いてんのかよ」
「……! ご、ごめん」

 イラついた声に、おれは雑念から引き戻されて謝った。

「と、とにかく、よかったらできそうかどうか確かめるのに、一度練習に顔だけでも──」
「くどい。何度言われてもやらねー」

 きっぱり言い切って、香納は完全に顔を背けた。

「もう帰れ、ウザい」

「香納くん……」

「……あらた、これ以上は……。戻ろう」

 麻青がおれの腕をつかむ。
 香納は再び机に突っ伏した。もう話をする気もないようだ。

「……お昼寝の邪魔してごめんね」

 香納の後頭部にそれだけ声をかけて、おれたちは教室を出た。



 
 さらに翌日。

「麻青。おれ、もう1回香納に頼んでみる」

 昼食後、麻青にそう告げると、彼は驚いたように目を丸くした。

「え、また行くの?」

「うん」

「無理じゃないかな……強制できることでもないし……」

 昨日とは打って変わり、麻青は賛成しかねるようだ。
 昨日の香納の態度を思えば、おれも麻青のほうが普通の判断だろうなとは思う。

「それに、祥太が代役なら自分がやるって言ってたじゃない。キャラは調整するしかないだろうけど、祥太に頼んだほうが……」

「強制なんかしないし、できっこないよ。でも……もう1回だけ、頼んでみたいんだ。それでダメだったらあきらめる。大丈夫、トラブルは起こさないから」

 心配そうな麻青を、おれはそう話してなだめた。
 やりたくない人にやらせることなんてできない。そんなことはもちろんわかってるけど……もう一度だけ、香納と話してみたいと思ったんだ。

「今日は一人で行ってくる。待ってて」
「……わかった」

 麻青を教室に残し、おれは3組へ向かった。
 香納は──昨日と同じ席で、今日は起きていた。昼食は済ませたのか、何もない机に左ひじを立て、頬杖をついて窓の外を眺めている。

(横顔のラインもすごい綺麗だな……)

 よし、と内心で気合を入れて近づくと、途中で足音に気づいたのか香納がこちらを向いた。

「……また来たのかよ」
「しつこくてごめん」
「怪しい宗教団体みたいだな」

(うう……ひるまない、ひるまない!)

「無理なお願いしてるのはわかってる。でも、あきらめきれなくて」 

「…………」 

「今回の脚本、できるなら主役のキャラ、調整なしでこのままいきたいんだ」

「…………」

「自分で言うのもなんだけど、いい出来で……頑張れば上位も狙えるかもって思ってて……」

「……?」

 ずっと冷たい無表情だった香納がかすかに反応した。怪訝そうに目をすがめられて、おれは言葉を切る。

「? ど、どうしたの?」

「……脚本、おまえが書いたの?」

「あ、う、うん。おれ部長で、脚本兼、演出兼、舞台監督なんだ!」

 初めて香納から質問されたのが妙に嬉しくて、おれは早口に答えた。選手宣誓する子供みたいな語尾になってしまった。

「……ふーん」

 質問した割に、返答はそっけない。いや、気にしないでおこう。

「無謀かもしれないけど、おれは、今の脚本のまま地区大会を勝ち抜いて、先輩を都大会に行かせてあげたいって思ってるんだ。この舞台は、先輩たちへの感謝を込めた、集大成ってつもりで……」

「…………」

 香納はまた、無言で見るだけのモードに入った。
 もともと親しくない相手と話すとは得意じゃない。しかもこんなイケメンを目の前にしてると、油断すると緊張でしどろもどろになりそうだ。
 耐えろ、おれ。あせって体温が上がると、メガネが熱でくもってダサいことになってしまう。

(部長として頼みに来てるんだ。きちんと伝えないと)

「だから、香納は9月の地区大会だけでいいんだ。2カ月間、力を貸してくれないかな」

「…………」
「…………」

 無言。香納はおれを見たまま、何も話さない。
 何か言ってくれないとおれもどうしていいかわからなくて、息を詰めて待った。

「……おまえさ」

 やがて、おれが耐え切れなくなる直前に、ぼそりと香納は口を開いた。

「な、なに」

「読み聞かせがどうだったとか、人から話聞いただけだろ」

「う、うん。3年の先輩から」

「んな本当かどうかもわからない話だけで、なんで俺にそこまで必死に頼むわけ。とんだダイコン役者かもしれねーのに。他の部員を代役にしたほうが絶対安全だろ」

「それは……たしかに、そうなんだけど……」

 『部員を代役にしたほうが安全』。まさにその通りで、自分でも重々承知のことなので、返す言葉がよどんでしまう。
 そう、わかってるんだ。でも。

「ながやん先輩がうまかったって言うなら、ほんとにうまかったんだろうし……」

「けど自分で聞いたわけじゃねーだろ。その、おまえが書いた主役とやらをやれるようなレベルなのかは怪しいもんだろ」

「それは……うん……」

「なら、そんな──」
「でも。おれもなんか、香納ならできるかもしれないって思って」

 香納の声を、あえてさえぎっておれは言った。
 情けないけど、言い負かされたらおれは折れてしまう。
 それくらいの、自分の中にある小さな小さな予感。
 だけどそれを折られたくなくて、消したくなくて、負けてしまう前に言葉にした。

「昨日話した時、香納ならできるんじゃないかって思ったんだ」

 そう。だからこそ、こうしてもう1回頼みに来たんだから。

「……は? なんでだよ」

 香納の眉がぎゅっと寄る。怒らせたか?
 おれの中にも、明言化された理由なんてない。そのままを伝えるしかない。

「なんとなくだけど……昨日話してて、香納の……目の強さっていうのかな。そういうの……役者に向いてると思ったし……」

「顔かよ」

「! ち、違うよ。顔立ちとか目つきの話じゃなくて……も、もちろんそれも大事な要素なんだけど……目の……力の、強さ」

「……力?」

「うん……それに、声も舞台向きだと思うし……。この人は、目や声、体で……『伝える』力を持ってる人なんじゃないかなって。それを、見てみたいって……なんとなく、そう思ったんだ……」

 またしばらく沈黙が流れた。周囲の喧騒から切り離されたように、ここだけ時間が止まっている。

「……あほくさ」

 時間を動かしたのは、香納のその声と、ガタンと立ち上がる音だった。
 彼は椅子を直しもせず、そのままおれの横を過ぎて扉に向かおうとする。

「あ、ま、待って、香納!」

 おれは振り返り、香納を引き留めようととっさに手を伸ばした。
 そのとたん、ふっと視界が暗くなる。
 急に地面が柔らかくなったようだ。ぐにゃりとすべてがゆがむような感覚がして、体がかしぐ。

(やば。倒れる……)

 とても遠いところで冷静に判断している自分がいたけれど、実際にはどうもできない。
 このまま床に激突を覚悟したけれど──傾いた体は、ドサリと何かに受け止められた。

「……っぶな」

 香納だった。
 倒れかけたおれを、彼は両手で抱き留めてくれていた。 

「あ……」

「……立てるかよ」

「……ご、ごめん……」

 足の裏で床の感触を確かめる。もう平気だ、立てる。
 おれが体勢を整えると、香納も手を離して距離を取った。

「なに。貧血?」
「ちょっと、めまい……」

 おれはずり落ちたメガネを直しながら苦笑する。

「ただの寝不足だと思う。昨日と一昨日(おととい)、あんまり寝てなくて……」

「なんで」

「本の調整してたんだ。代役がどうなるかで何パターンか想定して、書き換え案を考えてて……」

「……倒れかけるまで無理してやることかよ」

「うん、おれにとっては」

「部長だからか」

「……いや。単におれが、好きなんだ。本を書いて、それを演じてもらって、みんなで舞台を創り上げていくってことが。創り上げたその世界を、観客に楽しんでもらうっていうことが。だから、のめり込んじゃうんだよね」

 練習を重ねてきた舞台が成功した時の充足感。おれの描いた世界を楽しんでくれた観客の笑い声、歓声、拍手。おれはすっかり、その魅力に憑りつかれている。

「でもやっぱり、祥太を主演に変える場合のいい案が浮かばなくて……あ、祥太っていうのは2年2組の、男役で活躍してる部員なんだけど……」

 昨日……というかほぼ今朝まで頭を悩ませていた部分を思い出して、おれはあごに指をあてた。

「タケルって、夢とか希望を忘れちゃってる、スレた男なんだよね。最初のほうは、やさぐれてるダメ男なんだ。その感じを祥太にやってもらうとなると……そうだよな、やっぱ方向性が……そうすると中盤のあそこも……」

「知らねーし」

 げしっとスネに衝撃があって、おれは「わっ」と叫んで一歩よろけた。
 スラックスのポケットに両手を突っ込んだ香納が、右足でおれを軽く蹴ったのだ。

「いてて……蹴らなくても……」

「とんだ演劇バカなんだな、おまえ」

 控えめな抗議は完全に無視して、香納はおれの顔を見据える。

(あ……やっぱりこの目、いい……)

 まっすぐ、つらぬくように見てくる目。何をどうごまかそうと、この目ならすべて見抜いてしまうんじゃないかというような光がある。
 今は、彼が何を考えているかはよくわからない。でもこの目に彼の感情がのったら、もっといろんな、すごい光を見せてくれそうな……。

「…………条件次第では、やってやってもいい」

 ふいに彼の唇が紡いだ言葉を、おれはすぐには理解できなかった。

(えっ? い、いま、なんて言った?)

 やってやってもいい──そう、言ったよな?

「ほっ、ほんとっ!?!?」

 おれは踏み出して、ずいいっっと香納に詰め寄った。

「デカい動きすんな。またふらつくぞ」

 勢いに気圧されたように、香納は後退する。でもこの興奮は、そう簡単には抑えられない。

「だ、だって今、やってくれるって! そう言ったよね!?」

「条件次第では、な」

「……条件?」

(なんだろ。まさかギャラ要求される?)

「みんなで仲良く発声練習とか筋トレとかダンスとか、だりーからパス」

「ああ……そういう──っていうか、ダンスやってるの知ってるんだ?」

 体力トレーニングの一環として、我が部では基礎トレの中でダンスもやっている。

「……たまに外でやってるだろ。そういうのはやらねー」

「そ、そっかぁ。……でも、基礎トレも結構大事なんだけど……主演だとほぼ出ずっぱりだから、体力持たないと……」

「どう見ても、昨日のドチビよりは体力あるわ」

 言うなり、香納はポケットから手を出しておれの手首をつかんだ。驚く間もなく、その手を自分の腹部に持っていく。

「わっ……」

 シャツ越しに、手のひらを彼のお腹に押し付けられて意図を察した。硬い。
 思えば、半袖からのぞく腕だって筋肉がついている。普段から鍛えている体だ。

(うん、この腹筋なら腹式呼吸も……うんうん、いいぞ……)

「……撫でていいとは言ってねー」

「! ごごごめん、つい!」

(うわーっ、香納のお腹さすさすしちゃった!)

 ギュインと我に返って、おれは急いで手を引いた。

「わ、わわ、わかった。基礎トレは免除でいいよ」

「……あと、体力以前に激しい運動嫌いだから。そういうシーンあるなら書き換えて」

「激しい……あ、アクションシーンってこと?」

「そうだよ」

「大丈夫。走ったり、口論で襟首つかむとかはあるけど、そんなに激しいアクションシーンはないよ」

「あっそ。ならいい」

「発声方法や滑舌については、練習の中で指摘させてもらうかもしれないけど……それはいい?」

「まぁ」

「ありがと。……ところで、昨日のドチビって麻青のこと?」

「名前なんか覚えてねー」

「……あ、そう。一応、あの子が恋人役だから……えっと、仲良くしてあげてね……?」

「……ふーん。ラブシーンとかあんの」

「少しある。キスシーンが……あ、でもしてるように見せるだけで、実際にはしないから」

「へー」

(へーって、それどういう『へー』……?)

 さっきから全然表情が変わらないので、どう感じているのかさっぱり読めない。

「条件3。おまえが俺の練習相手になれ」

「えっ? どういうこと?」

 唐突に新たな条件を出されて、おれは面食らった。

「練習はみんなでするんだけど……」

「こっちは素人なんだからそれだけじゃ足りねーだろ」

 ああ、よかった。全体練習に参加しない、とかいう話ではなかったみたいだ。

「演出もおまえなんだろ? 俺が使い物になるよう、おまえが責任持って個別指導しろよ」

「それはもちろん! いくらでも付き合うよ」

「付き合うだけじゃなくて、俺の出した要求はのめよな」

「え……要求って、どういう……? 基礎トレとアクションNGの話じゃなくて……?」

「別。俺に人一倍練習させんだから、おまえも相応の対価払えって言ってんだよ」

「ええ……?」

(対価ってなんだ? よくわかんないけど……)

 でも、おれが頼んだんだから、おれが香納のことに責任を持つのは当然だ。

「わかった。責任持って、おれが最後まで、なんでも付き合うよ!」

 断言すると、香納は「ん」と、満足げに少しだけ口角を上げた。

(わ。もしかして今の、笑った?)

 初めて見た笑顔らしい表情に、おれはドキリとする。

(香納でも笑うんだな。舞台では、どんな顔を見せてくれるんだろう)

 眼前の未知の役者(の卵)に、純粋にワクワクしてきた。
 そんな、楽しんでいる場合じゃないのもよくわかっているんだけど。

「じゃあ、さっそく今日の部活に顔出してもらうってことでいい?」

「まぁ」

「わかった。じゃあ放課後、ここまで迎えに来るから!」

 弾む声で言い、おれは来た時とは打って変わった、軽やかな足取りで3組を後にした。