いつもの待ち合わせ


久しぶりの学校は、どこもかしこもゴールデンウィークの話題で持ちきりだ。
旅行に行っただの、デートに行っただの、浮かれたクラスメイトの声が聞こえて俺は思わず机に突っ伏した。
 
「なにやってんのよささぴょーん」
 
 あぁ、俺の悩みの種はこんなとこにもあったのか。
 ゆっくりと顔を上げると、キャピキャピして超絶浮かれている井上がいた。
 
「……オハヨ♡」
「寝る」
 
 待って待ってと言われて再び顔を上げると、まだ来ていない後藤の席に座った。
「なに」
 
 面倒だけど、一日このテンションで絡んできそうなので仕方なく聞くことにする。
 
「えー?聞きたい?」
「やっぱ寝る」
「冗談だって!俺さ、デートしてきたんだよね」
「へー」
 
 誰とって聞いて欲しそうなので、敢えて聞かないことにしてみる。
 案の定不服そうだが、俺の性格を熟知している井上は早々に諦めたのか話を続ける。
 
「俺って古着好きじゃん?」
「聞いたことないけど」
「うん。まぁハマったのは最近なんだけど」
「へー」
 
 テキトーな相槌が相当気に食わないのか、井上は俺を睨んでいる。
 
「親友の新しい趣味にもっと興味持てよ」
 
「すまん」
「よろしい」
 
 平謝りで許してもらえるなんてラッキーだ。その後も古着屋で出会った女の子との話を延々と聞かされる俺の頭の中は、正直別のことでいっぱいだった。
 蓮也の知らないことを知る度にあんなに嬉しかったのに、井上には悪いけどそうなんだとしか思わない。興味がないわけではないけど、嬉しいという気持ちは全然湧いてこない。
 
「ところで、佐々木の好きな人はどうなった?」
「は?」
 
 自分のことを話して満足したのか、次は俺のことを聞いてくる。
 
「スマホ見てニヤニヤしてることだよ。今の俺にはわかる。お前はその子に恋してんだろ」
 
 またこの話題だ。もうこの際なら井上でもいいか。
 とにかく今はこの悩みをどこかに吐き出してしまいたい。
 
「俺の友だちの話なんだけどさ」
「お前俺以外に友達いたっけ」
「うっせ」
 
 俺に井上以外の友達がいるかって、そんなに眉間に皺を寄せて考えることなのか。少し不安になるじゃねぇか。
 
「あーえっと、友達は最近、Aの新しい一面とか意外なところを見る度に嬉しくなるらしいんだけど」
 
 うんうんとしっかり頷いて話を聞いてくれる井上に、さっきまでの態度を反省する。
 
「A以外の人のそういうところをみても、特に嬉しくなることはないらしくて。それってどう思う?」
「好きってことだろ」
 
 悩む素振りも見せずに即レスをくれる井上と、まだしっくりこない俺。
 
「それって友達として?」
「めちゃくちゃ仲のいい友達の場合もあるんだろうけど、ほぼ恋愛だろ」
 
 堂々としている様は、朝あんな挨拶をしてきた人と同一人物とは思えない。
 
「ドキドキしたら恋愛ってこと?」
「怖い状況とか驚く状況じゃないのにドキドキしてんなら恋愛じゃね」
「なるほど」
 
 ふとシャンプーの匂いのする蓮也の顔が頭に浮かんで、左右にブンブンと首を振る。
 
「なにやってんだ? まぁAのことは知らんけど、少なくとも前まではスマホ見てそんなにニヤニヤしてることはなかったぞ」
 
 井上がその話をした時、斜め前の席に男が座った。その人物がスマホを操作したと思ったら俺のスマホが鳴った。
 
「例の子か!?」
「いや……」
 
 おはようとくま太のスタンプが届いて、俺も同じスタンプを返す。今日は井上がいるからなのか、LIMEで挨拶された。
 蓮也に聞かれたかと思って内心焦っていたけど、いつも通りっぽいし話は聞かれてなさそうだ。
 
「またニヤけてるし。とりあえず進展あれば教えて」
「ハイハイ」
 
 そう言って自分の席に井上は戻って行った。
 井上が戻った途端にくるっと振り返った蓮也が口パクで「おはよ」と言ってきたので、小さく右手を挙げて返す。
 蓮也が前を向いて座ると、二人組の女子が蓮也に話しかけにきた。
 
「蓮也いつ遊びに行けんの?」
「んー?ずっと無理かな」
「彼女いないじゃん」
 
 なんだ、彼女いないのか。……いやなんでホッとしてんだよ。それと同時に「……何て答えたら凌太は嬉しい?」と言った蓮也の言葉が脳内に流れ込んできた。だから嬉しいってなんなんだよ。
 後ろで盗み聞きなんかして申し訳なく無くなるけど、ちょっと気になるというか。
 
「俺は中学の頃から好きな人いるから。こう見えて一途だから勘違いされたくないの。翔たちに声掛けて」
 
 蓮也の言葉に女子たちは自分の席へと帰って行った。
 なんだ、好きな人はいんのか。……そうか。
 その話を聞いて、また心臓がキュッとなった。
 こんなことで気付くなんて不本意だけど、どうやら俺は本当に蓮也のことが好きらしい。




 それからどんな授業を受けて、どうやって学校で過ごしていたのかあまり覚えていない。気付けば家に着いていた。
 はっきりと覚えているのは、蓮也には中学の頃から好きな人がいるらしいということだけ。
 今日は本当なら久しぶりにセボンに行こうと思っていた。
 だけど恋心を自覚した恥ずかしさだけじゃなく、同時に失恋もしてしまった俺はどんな顔で蓮也に会えばいいのかわからない。
 姉貴は手遅れになる前にって言ったけど、もっと早くに気づいたって既に遅かった。
 中学時代の蓮也のことなんて知らないから。
 初恋も失恋も同時に経験するなんて、フツーの俺にとって凄い出来事だ。

 ベッドにダイブして枕に顔を埋めていると、枕がじんわりと濡れていることに気が付いた。