「おはよ」
よくわからない関係から『友達』という名前がついた蓮也とは、相変わらず不思議な関係が続いている。
あれから数日、以前と同様に何故か周囲にはバレないようにこっそりと挨拶を交わし続けている。
一緒にいる友人も違えばタイプも違う。ただ同じクラスで友達で、コンビニのバイトと客。
学校で話すようにもなんのかと思ったけど、蓮也がこっそり挨拶をしてきたので俺もそうしている。自分からあの陽キャ集団に話しかけるなんてまずありえないし。
ただ、変わったことがある。
時折、授業中に通知が来るようになった俺のLIMEだ。
『あくび』
『前みろ』
『先生の服ダサい』
『それは分かる』
『お腹すいた』
『さっき食べたんじゃないのかよ』
『昨日のくまライフやばかった』
『あれはもう神回でしかないな。伝説』
席替えにより教室の窓側の一番後ろの席という最高の場所にいる俺と、右斜め前の席に座る蓮也。
蓮也はプリントを後ろの席へ回す時だったり先生が板書している時に、俺をチラ見してはすぐにLIMEをしてくる。
俺とダチなのがバレていいのかよくないのかわからない。まだ蓮也のことは掴めないけど、よく笑うし、意外と悪戯好きのお茶目なやつなのかもしれないと最近思っている。
「なぁ、彼女できただろ」
昼休み、学食のうどんを啜っていると井上は突拍子もなくそう言った。
「箸向けんな。誰にだよ」
「佐々木」
「……うっ、はぁ?!」
うどんが変なところに入り、思わず咳き込む。井上はそんな俺を怪訝な顔で見ながら、唐揚げを口に放り込んだ。
「はいひん、ニヤふいへる」
「は?」
ガヤガヤと賑わっている食堂で、口に物を入れながら話されたら余計に何を言ってるのか聞き取れない。
井上は食べていた唐揚げを飲み込んで、水を一気に飲み干した。ガンっと机に音を立ててグラスを置く。大きな音に周囲の視線が刺さる。頼むからやめて欲しい。
「だから!最近スマホ見てニヤついてるって」
「んなわけねーよ」
「特に授業中な」
そう言われて、一瞬固まってしまった。確かに心当たりがある。
ニヤついてるかと言われれば、たまに送られてくる写真が笑えるとかそんなことしか思いつかないけど。
「おい。図星か」
「ちげぇっての。彼女とかいねーよ」
「じゃあなんでスマホ見てニヤついてんだ。あ、なんかヤラシーもんでも見てんのか?」
揶揄う材料を見つけて嬉しいですと告げている井上の顔に、冷ややかな目を向ける。
こいつは中学の時から俺のことを何かと揶揄って面白がっている。蓮也とのことがバレたら、確実に面倒くさいことになる。
「お前には言わねー」
そう言って、うどんの汁を一気に飲み干す。
「じゃ、先戻ってっからお前も早く食えよ」
おぼんを持って席を立つ。また何か言われる前に教室に戻って昼寝でもしよう。
井上といると変な意味で目立っている気がする。
「あ、ちょ、置いていくなよ佐々木!ささぴょーん」
何か叫んでいる井上を置いて、教室へ向かう。
早く食べ終わったお陰で、予鈴までまだかなり時間がある。
食堂から教室のある棟へ続く渡り廊下を歩いていると、前から騒がしい集団が歩いてきた。
あ……、あれ?蓮也がいねぇな。そう思って通り過ぎようとしたら、俺を見た一番右の男がハッとした顔をした。
「佐々木くん!!」
「え」
「佐々木くんや。ちょ、こっちこっち」
「おいお前ら、蓮也に怒られんぞ」
あっという間に三人の男に取り囲まれたと思ったら、関西弁の男に腕を引っ張られた。
「ちょ、何」
「ええからええから」
そう言ってかなり長い時間引っ張られ、強引に連れてこられたのは屋上だった。
俺は今から何をされるんだ。
「なんで屋上」
「ここ俺らの溜まり場やねん。あ、俺は須藤晴矢な。晴ちゃんって呼んでくれてええんやで」
「知ってる。須藤に、桧山に、小早川だろ」
それと蓮也で四人組だ。目立ち過ぎて知らない奴は多分いない。
「俺らめっちゃ注目されてる?どうしよサインとか考えなあかんかな〜」と一人盛り上がっている須藤に、陽を感じてなんとも言えない気持ちになる。
「強引にごめんな。晴矢アホだから」
桧山はかなり申し訳なさそうにしていて、見た目に反して意外と真面目なのか。
須藤に関してはほんとにそのままって言うかなんていうか。
「いやいいんだけど、俺に何か用事……があるんだよな」
正直、蓮也関連のことしか思い浮かばないけど、こんな陽キャ集団に囲まれるようなことを何かしてしまったのか。
「佐々木くんさ、蓮也と友達になったって、マジ?」
「あー……うん」
小早川に聞かれてそう答えると、三人が目を合わせる。「ちょっと待っててな」と言われたと思えば、三人で肩を組みヒソヒソと話し出した。
なんなんだこの状況は。友達になったこと、こいつらには話してるのか。そしてその蓮也はどこに行ったんだ。
三人をぼーっと眺めていると、屋上の扉が開いて「ただいまー」と購買の菓子パンを大量に抱えた蓮也が入ってきた。
「あ、れ……りょ、じゃなくて佐々木?」
「よっ」
俺がいることに相当びっくりしたのか、目を丸くさせている蓮也。
わざわざ言い直したってことは、こいつらの前では名前呼びを隠してるってことなのか。なんでそこまで隠してんのかよくわかんねーけど。
「なんでここにいんの?」
「なんか連れてこられた」
ヒソヒソと話している三人の方を見て正直に話すと、ごめんと言って慌てて三人の所に突っ込んで行った。
「ちょ、お前らなんか変なこと言ってねぇよな?!」
「蓮也おせー」
「腹減った」
「購買混んでたん?お疲れさん」
こんなに近くで四人を見ることはあまりなかったけど、あまりにも顔面偏差値の高い集団で改めてビビる。住む世界がちげぇって感じ。
その中にいる蓮也と俺が友達だなんて、未だに信じ難い。
「佐々木ほんとごめん。お詫びと言っちゃなんだけど、好きなパン食べて」
戻ってきた蓮也は、そう言って大量の菓子パンを前に出してきた。くま太のくじを自腹で二回分引いて節約モードの俺は、うどんだけだと少し物足りなかったから正直かなり助かる。
「んじゃ、このメロンパンもらう。ありがと」
「おっけー。ごめんな」
そう言うと、またあいつらの元に走って行った。あっちに行ったりこっちに行ったりワタワタしている蓮也がこれまた意外で、俺は堪らず笑う。
「あ、佐々木くん笑ってるやん」
須藤に指摘されて、少し恥ずかしくなる。いや、なんで俺が恥ずかしくなってんだ。
「おい晴矢、お前だろどうせ」
話題を逸らすかのように、蓮也が須藤を睨む。
俺を拉致った犯人を探しているようだ。
「んもー怖いな。気付いたのは翔やで?俺ら蓮也と友達になったんか聞いただけやもん。な?」
須藤にそう言われ「うん」とだけ答えた。かなり強引に連れてこられたけどな。
「……はぁ。わかったわかった。もう食べよ」
溜め息をついて蓮也がこっちに歩いてくる。その後ろをぞろぞろと三人がついてきて、気づけば陽キャ集団と輪になって座っていた。
屋上なんて初めて来たけど、風が心地よくて最高の昼寝ができそうな場所だ。
蓮也と友達になっていなかったら、この心地よさを知らないまま卒業することになっていたんだろうなと思う。
「メロンパン好きなん?」
心地よさに浸っていると、右隣に座る蓮也にそう聞かれた。黒髪が風に靡いて、イケメンに拍車がかかっている。
「んー結構好き。特に学食に置いてるやつは美味い」
「それわかる」
「いつもここで食ってんの?」
「そう。今日はジャンケンで負けて俺が買い出し係。りょ……佐々木は?」
「俺はほぼ学食だな。実はさっきもうどん食った」
「そうなん?」
「おう。くじで節約中だったからメロンパン助かった」
そう言うと、蓮也はキョトンとした後に豪快に笑った。本当によく笑うな……何がそんなに面白いんだか。
蓮也が笑うと俺もついつられて笑ってしまう。
「二人仲良いんだな」
「佐々木くん蓮也のことよろしくなー」
「クールに見せかけたゲラやから」
「余計なこと言うな」
揶揄われている蓮也を見て、さらに笑ってしまう。
俺の思っていたいけすかない陽キャ集団は強引だけどいい奴らで、蓮也が仲良くしている理由がなんとなくわかった気がする。
心の中でゴメンナサイをして、この輪に溶け込んだ振りをする。
こうして不思議な二度目のランチタイムはわちゃわちゃと過ぎて行った。
