「佐々木はよ」
「なんか今日早いじゃん」
「今日はなんてったって信号に一度も引っ掛からなかったからな」
「アホだ」
下駄箱で会った井上のドヤ顔に笑いながら、一緒に教室に向かう。
二階の廊下を歩いていたら、二年三組の教室から例の陽キャ集団が出てきた。いつもは特に気にも留めないが、向かって一番左の男をつい見てしまった。
すれ違う直前、肩がぶつかりそうになるのを避けようとすると、一瞬だけ俺のブレザーの裾に男の手が触れた。
「おはよ」
え?
俺にだけしか聞こえないような声で挨拶をして、振り向きもせずにそのまま歩いて行った。
「おい、佐々木聞いてたか?」
「聞いてた聞いてた」
「絶対聞いてないやつ」
横でぶつぶつと文句を言っている井上の声は、正直何も入ってこない。
あれは俺に挨拶したってことでいいんだよな?
それから放課後までなんだったんだと思っていたけど、特にそれ以外柊と話す事もないいつも通りの一日だった。
だけどその日から数日間、なぜか毎日柊にこっそり挨拶され続けてそのまま土曜日になった。
「どこ行くの」
二十時半を過ぎた頃、出かけようとする俺を姉貴が引き止めた。
「セボンだけど」
「ふーん。アタシ、ロールケーキね」
どうせそんなことだろうと思っていた俺は、ハイハイと軽く返事をして家を出た。また爆速でチャリを漕いで、セボンに向かう。
特に用事があるわけでもないけど、何となくセボンに行こうと思った。
チャリを止めて店内に入ると、気怠げないらっしゃいませが聞こえた。……今日もいた。
まっすぐスイーツコーナーに行ってロールケーキを手に取り、ポテチと、カフェオレと、レモンティーを手に取ってレジへ向かう。
「いらっしゃいませ」
「お疲れ」
「佐々木くん。今日もお姉さんに頼まれたの?」
「いや、まぁ、それはついでで」
「そっか」と答える柊は手際よく袋に商品を詰めている。
柊とは学校でこっそり挨拶だけを交わすよくわからない関係になってしまっている。でも別にそれだけだ。
クラスメイトとも友達とも、なんかちょっと違うようなふわふわとした名前のない関係。
この場合は店員と客の方がしっくりくるのか。
「今日、21時までなんだけど」
袋詰めを眺めながら考え事をしていると、柊からそう言われた。
「そうなん」
「時間あるならさ、近くの公園で待っててよ」
「ん、お……うん。わかった」
「何それ、変なの」
予想外のことに驚いて、変な声が出た。それを見て、ハハっと笑う柊。
クールだと思っていた柊は、俺が思っているよりもよく笑うみたいだ。
「じゃあ、また後で」
「ちゃんと待っててね」
わかったと返事をして店を出る。
袋をカゴに入れて、セボンから徒歩五分もない公園へとゆっくりペダルを漕いだ。
