次の日、少しだけ揶揄われやしないかと柊を目で追ってみたが、特に何もなくてやっぱり俺のことなんて気づいても無さそうだ。
いつも通り平和に学校から帰宅して、飯も風呂も済ませた俺はリビングで寛いでいた。
「凌太」
現在、二十時半を過ぎたところ。
この時間に姉貴に声を掛けられると嫌な予感しかしない。俺は幸いにもソファにいたため寝たふりをする。
「凌太、セボン行ってきて」
寝ているふりがバレている。いや、むしろ本当に寝ていたとしてもお構いなしだろう。姉貴は俺の肩を叩いてセボンに行けと促している。
「昨日も行ったけど」
「今日はストロベリーDXシュークリームが食べたいから。それとアンタの好きな漫画のくじ今日からでしょ。三回は引いてきていいから」
姉貴に言われて思い出した。
今日は俺の大好きな『くまライフ』のくじ引きがコンビニで始まってんだった。それにしても三回も引いていいなんて、あまりにも気前が良過ぎて恐ろしい。なんか裏があんじゃねぇか……。それか、雪でも降んのか。
でもそんなことを考えていたらA賞のぬいぐるみを逃すかも知れない。今はとにかくセボンに急げ、俺。
「行ってくるから、三回な!!」
「ハイハイ、急いでな」
昨日に引き続き、俺は爆速でチャリを漕いでいる。でも今日は俺の愛するくま太が待ってんだと思うと気合いが入る。十分掛かるところを今日は五分で到着することが出来た。またまた新記録更新だ。
ウキウキで店内に入ると、いらっしゃいませと気怠げな声が聞こえて俺の足は止まった。
ああああああ……柊がいることをすっかり忘れていた。
今日もバイトしてんのか!偉いな!……じゃなくてどうする?俺が引きたいのはあまりにも可愛いキャラクターのくじだ。幾ら向こうが気づいていないとはいえ、流石に俺みたいな男が引くのはちょっと気が引けるというか何というか……。
モテ男に見られんのが恥ずい。でも愛するくま太はすぐそこにいんだ。男見せるしかねぇぞ、佐々木凌太!!
何でもないふりをして奥のスイーツコーナーへ向かい、姉貴に頼まれたものをサッと手に取る。そのまま下を向いたまま早足でレジへ向かう。
「いらっしゃいませ」
柊の声が降りかかり、俺は少し早口になって「くまライフのくじ五回で」と発した。
「かしこまりました。くまライフのくじが五回ですね」
復唱されたことにグッと羞恥心を堪えながら会計を済ませると、柊がくじの入った箱を持ってきた。
早く終わらせたい一心で、急いでくじを五枚取る。本当ならめちゃくちゃ慎重に選びたいところだけど、そんなことは言ってられない。
手に取った五枚を緊張しながら一枚ずつ捲っていく。ハンカチ、ハンカチ、アクリルスタンド、ハンカチと並んで、最後の一枚になった。深呼吸をしてからゆっくり慎重に捲ると、俺の欲しくて堪らなかったA賞の文字が見えた。
「よっしゃあああ……あ」
思わず顔を上げて叫んでしまい、柊と目が合う。驚いて目を見開いている柊を見て、何を焦ったのか「あ、っと……柊くんこの辺住んでんの」とキモいことをいきなり意味不明なタイミングで聞いてしまった。
いや新手のナンパか俺は。柊はさっきよりも目を見開いて黙っている。
「ごめん、何でもな――」
「うん。すぐそこ。 佐々木くんもこの辺?」
「へ?」
意外にもあっさり返してくれたことと、俺に気付いていたことに驚いて思わず変な声が出た。柊の前で醜態晒してばっかだな、俺。
「昨日も来てくれてたよね」
「……え、あ、うん。姉貴にパシられてチャリ爆速で漕いできた」
「じゃあ今日もお姉さんに?」
「まぁそうなんだけど、くまライフは俺が好きで……」
そう言うと「俺も好きー。最新刊までちゃんと追ってるんだよね」とにこやかに告げられた。モテ男との意外な共通点に驚きながらも、話したい気持ちが沸々と湧き上がった。
「あ、いらっしゃいませ。……これ、くま太のぬいぐるみ。良かったね」
「ありがと。……じゃ、頑張って」
「気をつけてね」と爽やかな笑顔を向けられる。こんなん女の子ならやべぇだろうな。男の俺でもちょっとドキッとする。
くま太を大事にカゴに入れて、俺はまた爆速でチャリを漕いで帰った。
