昼休みを終えて教室に戻ると、拗ねて机に突っ伏している連夜の姿があった。
「なぁ、蓮也ごめん」
「ごめんって何」
「だから、そんなつもりなくてさ」
「俺もデートの約束したから、もういいよ」
「……は?」
蓮也の言葉は聞き捨てならない。デートの約束ってなんだ。
そう思っていると、教室にやってきた派手な女の子。上履きの色が違うから三年生だ。
「蓮也、明日どこ行く?」
「どこでも。先輩の好きなとこでいーよ」
「じゃあカラオケでも行こ」
「いいね」
恋人の前で繰り広げられる会話とは思えない。
ただ拗ねているとか、怒っているのなら謝って仲直りしようと思っていた。
だけどこれはもう話が違う。何を考えているのか全く分からない。
俺は黙って自分の席に座った。
なんだよ。お前が浮気すんのかよ。こうなったら帰って明日思いっきり楽しんでやるよ。
その日はもう目も合わせなかったし、ずっと続いていたLIMEも初めて途切れた。
放課後、今日は林とスパイクを選びに行く日だ。
朝から一度も蓮也と話していないし、右斜め前の席から振り向くことも無い。
俺ら付き合ったばっかりで何やってんだ。
先輩を待っているのか机に突っ伏したままの蓮也を置いて、待ち合わせの校門へ早足で向かう。
「凌太先輩!!」
校門に行くと、自分のチャリを押して待っている林が既に居た。
「ごめん遅かった?」
「いえ、自分も今来たばっかりです」
「とりあえず俺もチャリ取って来ていいか?」
「もちろんです!待ってますね!!」
確かに待ち合わせの文言だけで言うとめちゃくちゃデートみたいだけど、先輩と後輩だし男同士だし、俺は当然だけど林にだって俺への恋心なんて1ミリたりともないだろう。
チャリを押しながら、校門に戻るとニコニコ止まっている林。
「ごめんお待たせ。行くか」
「はい!」
これもデートっぽいな……なんて考えすぎなのか。
チャリを漕いで二十分ほど行ったところにあるスポーツ用品店に着いた。
「うわ、懐かしいな」
「でしょ。もうここでしかスパイクは買ってません」
決して大きなところではないけれど、店長が気さくで色々教えてくれる。それに何より値段もそんなに高くない。学生に優しい店だからと中学生の頃はずっとここに来ていた。
そのうち自分が先輩になって、後輩を数人連れて買いに来るようになった。もう来ることはなくなってしまったけど、久々に来ると下手なりに頑張っていた日々を思い出す。
「あれ?凌太くん」
「店長!お久しぶりです」
「でかくなったな」
「おかげさまで……」
店長は俺を見ると嬉しそうに話しかけてくれた。こうして覚えてくれていることが何よりも嬉しかったりする。
「ピアス付けなくなったの」
「最近はつけてないです」
「最初来た時はビックリしたな〜」
俺の大量ピアス時代を知る店長。今思うとよくあんなやつにスパイク売ってくれたな……。
「今日は林のスパイク選びに来ました」
「そうか。ゆっくり見ていってくれな」
「ありがとうございます」
「凌太くんは高校生になって恋人できたのか?」
店長との世間話で出てくる今一番痛い話題。
「あー、出来たんですけど今喧嘩中で……」
そう伝えると、店長はガッハッハッと豪快に笑った。
相変わらず笑い声の大きさにビビらされる。
「俺も付き合いたての時なんて、女房としょっちゅう喧嘩してなー。何が悪いって売り言葉に買い言葉で相手の言い分なんて全く聞いとらん」
そう言われてハッとした。デートじゃないと言い張るだけで、何も気持ちを伝えていなかった。
「これからずっと一緒にいると、楽しいことばっかりじゃないよ。でもお互いの意見を言い合えるのも良い関係だ。俺はそうやって結婚四十周年だ」
またガッハッハッと笑う店長にビクッとさせられる。
やばい、今めっちゃ蓮也に会いたい。
「あの、ありがとうございます。林ごめん。俺ちょっと行っても大丈夫か?」
「もちろんです。今日買ったやつまたお披露目させてくださいね」
「分かった!店長すんませんまた来ます!」
「おう!仲良くな〜」
俺は急いでチャリに飛び乗って、得意の爆漕ぎで公園へと向かう。あいつもデートだって言ってたし、いる保証は全くないけどなんとなくあそこに行かないと行けない気がした。
汗をかきながら公園に入ると、ベンチに座る人影が見えた。
「なにやってんの」
いつもは俺の足元に出てくるスニーカー。
今日は初めて俺から出向いた記念日だ。
「凌太……なんでここに」
「なんかここに来ないと行けないと思ったから」
そう言って蓮也の左隣に腰掛ける。
「ごめん。前に嫉妬するって言ってたのに何も考えずに林と約束した」
「俺もごめん。嫌だってこと分かってもらいたくて。先輩とデートなんてほんとは嘘。先輩にフリしてもらって凌太のこと傷付けた。」
お互い言葉が足りなすぎた。
あんなにいつも話してたのに、肝心なところが抜け過ぎていた。
「付き合えて浮かれてたかも」
「俺も」
二人で顔を見合せて笑う。
「俺、蓮也しか好きじゃねぇから」
「俺だって一途なんだけど」
まだ人もいるってのに、どっちからともなく唇をくっつけている俺たちは相当お騒がせバカップルかもしんねぇな……。
「これからはちゃんと気持ち伝えるから」
「蓮也の気持ちは痛いほど伝わってるから程々で頼む」
「なんでそんなこと言うんだよー」
まだまだ前途多難な俺たちだけど、両想いってすげぇ。
