店を出て、俺たちがいつも話している公園へ向かっている。
あれからずっと無言のままで、俺もどうしていいかわからない。ただでさえ緊張で心臓が押しつぶされそうだってのに。
いつもは短く感じる二人での時間も、今日波動しても長く感じてしまって公園が遠くに感じた。
やっと公園について、チャリを止める。
「ベンチ座って待ってて」
公園に着くや否や、蓮也はどこかへ行ってしまった。
俺は言われた通りにいつものベンチの左側に腰を下ろす。
テストの日は早く帰れるからいいよなー、と砂場で遊んでいる子どもたちを見て思う。
昼間に来たのは二回目だな。
スマホで時間を確認しようとすれば、見慣れた白いスニーカーが目に入る。
「お待たせ。これがいるでしょ」
そう言ってレモンティーを渡してくれた。
「ありがと」と受け取ると、蓮也は右隣に腰を下ろした。
こっちから切り出すべきなのか、切り出すにしてもなんて切り出せばいいのかわからなくて、とりあえずレモンティーを一口飲んでみる。
「凌太」
名前を呼ばれて、肩に力が入る。緊張している証拠だ。
「返事する前にさ、俺の話先にしてもいいかな」
「うん」
「今から話すのはちょっと昔話なんだけど」
蓮也は前を見ながら淡々と話し出した。
「俺さ、前に中学の頃喧嘩ふっかけてボコボコに負けたって話したじゃん」
「うん」
泊まりの時、ピアスの話からそんな話になったけど、あまり触れて欲しくなさそうに見えて詳しく聞かなかった。
「俺ん家あの時、親が共働きで残業も夜勤も多くてほとんど家にいなくてさ」
「うん」
「たまに二人揃ったと思えば、子どもの面倒を見てる見てないとかって大声で喧嘩してばっかりで」
「……うん」
「離婚すんだろうなって思ってはいたけど、いざ離婚した親見たらなんかもう全部どうでもいいやって思えてきて。夜中に飛び出して、喧嘩もしたことないくせに大人数のとこに絡んだんだよね」
「うん」
「それで当たり前にボッコボコにされてさー」
蓮也は笑っているけど、めちゃくちゃしんどかっただろうなと思う。
大丈夫かとか、辛かったななんて当たり前のことは無責任な気がして言えないから、黙々と蓮也の話を聞く。
「公園で拗ねてたら、同じ歳くらいの男の子が俺のとこに駆け寄ってきてさ」
「うん」
「俺の傷見て大丈夫か?って絆創膏一枚くれたんだよ」
「足りたのか?」
「ぜーんぜん。びっくりするぐらい足りないよ」
そう言って笑っている連夜の横顔をじっと見ていると、蓮也は突然こっちを向いた。
「俺そん時泣いたんだよね」
「うん」
「きっとさ、誰かに大丈夫かって言われたかったんだと思うんだよね」
「そうだな」
「親の怒声も、美也の泣き声もいっぱい聞いてさ、俺自体がもうパンク寸前だったっていうか」
「……うん」
「だからさ、その時大丈夫かって声をかけてくれた子に、俺あの時からずっと恋してんだよね」
出た。盗み聞きしてしまったあの話題だ。聞きたくなかった蓮也の片想いの相手。
今も一途に想い続けているなんて、想われている奴はよっぽど幸せな奴だな。
「でも、名前も知らないんだろ?」
ちょっとだけ否定したくなる俺は最低だな。
俺の意地の悪い質問が気に障ったのか、俺の目をじっと見ている。
慌てて謝ろうとしたら――だよ。
「え?」
上手く聞き取れなくて、思わず聞き返す。
「その人の名前、佐々木凌太って言うんだけど」
佐々木、凌太?って……?俺?いや、同姓同名?
俺にはそんな記憶なんてないぞ。
「まーだわかってないか。だから、俺の中学からずっと好きな人、佐々木凌太なんだけど」
「え、……いや、だって俺そんな記憶ないし」
「ピアス」
「え?」
蓮也はそう言って、俺の右耳に少し触れた。
「その子は俺と同じ歳ぐらいなのに、右耳に大量にピアスついてたんだよね」
「でもそんなやつ他にも……」
「俺がもらった絆創膏、くま太って言うんだけど」
中学の頃に右耳にピアスが大量についていて、くま太の絆創膏を持っていて、名前が佐々木凌太……そんなことって。
「いい加減気づいてくれた?だから、返事じゃなくて」
そう言って右隣からいなくなった蓮也は、今俺の目の前にいる。
「声をかけてくれたあの日から、ずっと好きでした。俺と付き合ってください」
ニコニコと俺の前に差し出した左手は、明らかに震えていて。
俺は涙で視界が歪みながら、震える右手で、その震える右手を取った。
「よろしくお願いします」
そう言うと、思いっきり蓮也の匂いに包まれた。
そうか、これが両想いってやつか。
